団地でひとり暮らしだった母の遺品整理。手芸本、着物、アルバム…大量の荷物の中、見つけた母の走り書きには家族への恨みつらみが【2025年下半期BEST】

(イラスト:ナカミサコ)

2025年下半期(7月~12月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2025年11月28日)

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総務省が発表した住宅・土地統計調査(令和5年)によると、全国の空き家の数は900万戸。空き家率も13.8%と過去最高を記録しています。離れて暮らす親の死去により、空き家となる家も多いのでしょう。その際、遺品整理は残された人の大きな負担となっています。
ただ、故人の残したモノと向き合うと、知らなかった一面が見えてくるようで――。東山恵子さん(仮名・神奈川県・会社員・67歳)は、団地でひとり暮らしをしていた母親を亡くし、生前のままになっていた団地の部屋を訪れると……。

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手芸本100冊に着物が60枚

私の母は89歳の時、骨折を機にケアハウスへの入居を決めた。団地で元気にひとり暮らしをしていたが、足腰が弱って転ぶことが増えたので、これ以上はムリと判断したのだ。一人娘としてはプロに任せることができて一安心。母が新しい暮らしに馴染むまで、借りていた部屋はそのままにしておくことにした。

半年が過ぎた頃のある台風の朝、ケアハウスから、「お母さんが返事をしないんです。少し熱っぽいので救急車で病院に行きます」と電話があった。仕事を早退し、母の保険証を持って駆けつけると、確かに息はしているけれど、こちらの呼びかけに反応がない。

入院手続きを、と言われベッドを離れている間に、母は息を引き取ってしまった。長患いせず、ピンピンコロリで幸せな最期だと思うものの、あっという間の出来事に茫然としてしまう。

慌ただしく葬儀やケアハウスの退去手続きなどを終えたところで待っていたのは、賃貸だった団地の明け渡しだ。まずは母の生前のままになっている荷物を何とかしなければいけない。ポストに入っている「遺品整理! 格安!」と書かれたチラシを集めてみたものの、どれもいまいち決め手に欠ける。

そこで友人に相談し、紹介してもらった遺品整理業者から見積もりを取ることにした。やって来た業者は部屋の中を確認し、「このモノの量ですと、費用は120万円です。ただ、ご紹介なので割引ありで、100万円で承ります。トラック5台分ですね」と言うではないか! 想像を超える金額に仰天し、「無理、無理、そんな大金ないってば」と叫びそうになりながら、紹介者の手前、見積もり書だけ受け取って帰ってもらった。

一見きちんと整理されている2DKの部屋。リサイクル業者に売れるモノもありそうだと、確認してみることにした。壁際に置いてある棚や押し入れ、クローゼットを開けると、出るわ出るわ、「なんでこんなに取っておいたの?」というものばかり。

押し入れには、編みかけのセーター、毛糸、ビーズなどの手芸品と、100冊を超える手芸本。クローゼットの奥には段ボールがあり、見たこともない着物が約60枚入っていた。

別の場所には母のアルバムが何冊も。めくると写真一枚一枚に、丁寧に説明書きがつけられている。これは一体、どうしたらいいのだろう。

全部捨てる、と潔くなれたなら遺品整理は簡単なのに、いちいち中を確かめてはノスタルジーに浸り、取っておきたくなってしまう。母の生前に、いるモノ、いらないモノを一緒に分けておけばよかった……。そうしたら懐かしい話もできたのにと、センチメンタルな気分にもなり片づけが進まない。

リサイクル業者に来てもらい、着物や洋服、レコードプレーヤーの見積もりを取った。着物は60枚で1000円。古いけれど、きれいにたとう紙に包まれているのに……と少し残念な気持ちに。アクセサリーも数十個で1000円。洋服100点で1000円。プレーヤーは値段がつかずじまい。

仕方ないとあきらめ、すべて売ったものの後悔が襲ってきた。特に着物は柄が可愛かったから、リメイクして小物を作ったら素敵だっただろうし、外国人の友だちにあげたら喜んだかもしれない。考え直して、着物のみ返品して欲しいと連絡をした。

返してもらったはいいものの、これらを保管しておくスペースはわが家にはない。悩んだ末、レンタル倉庫を契約。月1万円は痛い出費だが、捨てる覚悟がないのだから仕方がない。0.8畳分のスペースを借り、置いておくことにした。

最後に残ったのは、ビニール袋、パンタロン、扇風機、ハンカチ……など、処分するしかないモノ。私の職場でゴミ回収を依頼している会社に連絡をしてみたら、遺品整理もしてくれるという。大型の家具もゴミも全部込みで、金額は最初に見積もりをお願いした業者の4分の1。すぐに予約をした。

もやもやがぬぐいきれず

約3ヵ月かけて遺品整理をするなかで、私は母の本心を知ることになった。紙の切れ端やノートの一部に母の独り言が書かれていたのだ。それを目にした瞬間、心臓がドクンと音を立てた。

なぜならそこには、別居している私の父が、どんな酷い仕打ちを母にしたのかに始まり、「また娘(私)から連絡があった。悩みばかりで食欲がない」「孫の世話はもうしたくない」などといった私への恨みつらみが書かれていたからだ。

いつも前向きだった母。人の悪口を言うところを聞いたことはなかったのに……。知っていたはずの母の人格が、がらがらと音を立てて崩れていく。

もし母の生前に、一緒に片づけをしていてこの走り書きを見つけたなら、「いやだ、そんなことを思っていたのね」と軽く言えたかもしれない。しかし一人でこのメモを見つけた今、もやもやした気持ちがぬぐいきれずにいる。

とはいえ相談する相手を間違えたら、「親のことを悪く言ってはいけない」や「やさしくていいお母さんだったんでしょう」などといなされて終わりだと思うと、誰とも共有できなくてもどかしい。

いっそ捨ててしまおうかとも考えたが、箱に入れて取っておくことにした。「不満を残して死なないように」という教訓かもしれないと感じたからだ。

いよいよゴミ回収業者との約束の日。家具や不用品は5時間ほどできれいになくなり、部屋は空っぽになった。

団地管理の担当者に部屋を明け渡すと「きれいにしてくださってありがとう」と労いの言葉をいただいた。やっと母の遺品整理を終えることができた、と安堵する。

残るはレンタル倉庫にある山ほどの手芸品と着物。あれらをいつ、どのようにリメイクしようか。区切りがついた今は、少し前向きにそんなことを考え始めている。

遺品整理サービスでのトラブルに注意

東山さんは、母親の遺品をリサイクル業者やレンタル倉庫を活用することでなんとか整理を終え、借りていた団地の部屋を明け渡すことができました。

一方で、現在は核家族化や独居世帯の増加もあり、親族だけでは対応しきれない遺品の整理・処分を事業者に依頼する「遺品整理サービス」も普及しています。利用者が増える一方、全国の消費生活センターには、「高額な追加料金が発生した」「処分しない予定の遺品が処分された」などの相談が寄せられているそう。

遺品整理を頼むときは、事業者選びは慎重にhttps://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen525.html

被害に遭わないためにも、複数社から見積もりを取る、キャンセル料や具体的な作業内容について事前に確認するなど、事前の対策が大切です。

事業者とトラブルになった場合には、消費生活センターに相談してみましょう。

全国の消費生活センター等
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