「給料50%カット」を表明も漏えい指示の疑惑はスルーの斎藤知事、“切られた“元ナンバー3は「パワハラの一番の被害者は俺や」と怒り心頭か

「斎藤知事に言われてやりました」“右腕”“ナンバー3”の元総務部長が私的情報漏えい指示を暴露…停職3か月の処分で県は「刑事告訴はしない」知事は「指示した事実は全くない」 〉から続く

兵庫県の斎藤元彦知事は6月3日に開幕した県議会で、元県幹部の個人情報が複数のルートから漏えいしたことを陳謝し、自身の給与をカットすると表明した。これで幕引きを図りたいと考える斎藤知事に対し、漏えいの“実行者”である元側近・井ノ本知明元総務部長は「知事に指示されてやった」と主張し、自分への懲戒処分は不当だとして徹底抗戦する構えだ。井ノ本氏の“反撃”はこれから本格化するとみられる。 

〈画像あり〉兵庫県議会本会議で情報漏えいを陳謝する斎藤元彦知事と元西播磨県民局長・Aさんが出した告発文書

漏えい指示の疑惑は完全スルー。その上で管理責任を受け給料をカット 

「県政に対する信頼を損なうものであり、保有文書を適切に適正に管理すべき立場にある県として、県民の皆様、そして元県民局長とそのご家族、関係者の方々に深くお詫びを申し上げます」

斎藤知事は県議会で、自身のパワハラや公金不正支出疑惑などを昨年3月に告発した元西播磨県民局長・Aさんのパソコンから県当局が見つけた私的な情報が外部に流出したことについてそう述べ、軽く頭を下げた。

この情報漏えい事件を県政担当記者が整理する。

「県は告発者探しの過程でAさんの県公用パソコンの中にあったデータを押収しました。そのAさんの私的情報は、県人事課から少なくとも二つのルートで漏えいしました。漏洩ルートの一つは、実行犯は不明ですが、県の第三者調査委員会は県職員の犯行の可能性が高いと結論付けました。持ち出されたデータはNHK党の立花孝志党首らに渡り、立花氏はこのデータをSNSでさらしました」

もう一つの漏えいも極めて深刻な内容だ。“牛タン倶楽部”と陰で呼ばれた斎藤知事の側近グループの中でも知事の最側近とみられた井ノ本氏が昨年4月、計3人の県議に、私的情報を印刷した紙を見せながら内容を漏えいしたと、この問題を調べた別の第三者委は断定している。

「それだけではありません。井ノ本氏は県に『斎藤知事と片山副知事の指示を受け正当な業務として行なった』と供述したのです。しかも、同じく牛タン倶楽部メンバーとされる片山安孝元副知事と小橋浩一理事(当時)も第三者委に井ノ本氏の主張を裏付ける証言をしたのです。斎藤知事は『指示はしていない』と否認しましたが、第三者委は斎藤知事と片山氏が漏えいを指示した可能性が高いと報告書で言い切りました」(県政担当記者)

3日の県議会の冒頭、浜田知昭議長はこの報告を挙げ、井ノ本氏の情報漏えいが「斎藤知事、および元副知事の指示の下に行なわれた可能性が高いとの判断が示された」と強調。

さらに斎藤知事に対し「県民に丁寧な説明責任を果たすことを強く求めます」とストレートな要求をぶつけた。

斎藤知事の陳謝はこれに続く発言で出たが、「お詫び」の理由はあくまで情報を管理できなかったことに対するもので、漏えい指示の疑惑は完全スルー。その上で、「管理責任を受け止め給与の減額措置を行ないたいと考えています」と表明し、議会終了後に記者団に具体策を述べた。

「これから条例案を提出することになると思いますが、給与の20パーセントを3カ月減額措置させていただくことで今準備を進めています。今『3割カット』もしているので、あわせて給与を半分、減額措置をする形になります。さまざまな指摘があると思いますが、私としても県保有情報が適切に管理できなかったところは組織の長として責任を感じてますので、そこを減額措置という形で自らの身を処していきたいと思います」(斎藤知事)

井ノ本氏への刑事告発は行わない

いっぽう斎藤知事は議会で、立花氏らへの情報漏えいについて県が容疑者不詳のまま地方公務員法違反(守秘義務違反)の容疑で兵庫県警に告発し、XとYouTubeの運用会社に立花氏らのポストの削除を依頼したと説明。

また県が5月27日に井ノ本氏を懲戒処分したことも報告した。だが、井ノ本氏を停職3か月とした処分の結論には疑問が噴出している。

斎藤知事らによる漏えい指示の有無を判断せずに斎藤知事への責任追及を回避し、同時に井ノ本氏も“大甘”の処分にとどめたとの声だ。

5月27日の会見で県人事課長は、斎藤知事らが漏えいを指示した可能性が高いとの第三者委の判断を「否定するものではございません」と明言し、県当局自身が斎藤知事を疑っていることを隠さなかった。

だが同席した職員局長は「知事からの指示は(あったかなかったか)どちらかに断定できる客観的な判断材料も存在しません。このため指示があったとまでは認定しません。いっぽうで知事からの指示があったと職員(井ノ本氏)が信じている状況にあったと考えております」と説明。この“信じている状況”を井ノ本の情状をくむ材料にしたというのだ。

さらに、立花氏に情報を漏えいした人物は容疑者不詳のまま告発したのに、井ノ本氏の漏えいは実行者を特定したのに告発しないと説明した。

「(井ノ本氏の)行為態様、停職3月という社会的経済的制裁を加えていることに鑑み、刑事上の厳罰をさらに課すことまでは求めないこととし、刑事告発は行なわないことといたしました」(職員局長)

これに県関係者は憤りを隠さない。

「Aさんは昨年7月に『一死をもって抗議する』との遺書を残し自死したとみられています。生前Aさんは私的情報が出回っていることに苦しんでいました。井ノ本氏がこれを吹聴したのは、Aさんの人格をおとしめて告発内容に信ぴょう性はないと印象づける狙いだったとみられます。

その行為が、告発対象者である斎藤知事の指示から始まったのか井ノ本氏の独断で行なわれたのかも解明されていない。人の命を奪う結果を招いた疑いがある今回の漏えいの全容解明につながる刑事告訴をしないことは、誰にとって有利になるのでしょう」

「知事がオレを売るなら、表に出てへんことをぶちまけたる」 

県の会見翌日の5月28日、斎藤知事は定例会見で、「今回懲戒処分ということで一定の結論を出させていただいています」と述べ、問題の幕引きを図った。

ところが会見終了直後の夕刻、読売テレビが「処分は停職6か月が相当だったが知事らの指示を受けていた可能性が高いということで処分を軽くすることになった」と県幹部が証言したと報じた。

処分の決済は斎藤知事が行なっている。斎藤知事は、自分が漏えいを指示した可能性があることを理由に処分が一段階軽くされたことを把握して処分を決裁していたことになる。

だが、ここにきて斎藤知事にも“誤算”と言える事態が持ち上がった。

「斎藤知事が井ノ本氏の処分を一段階軽くする方向で動いたのは井ノ本氏をかばってのことでしょう。それでも井ノ本氏は、処分自体が不当で自分は無実だと抵抗を強めているのです。

5月27日に第三者委員会の報告書が公表される前から、井ノ本氏が『知事のパワハラの一番の被害者は俺や』『漏えいも知事に言われたからやったんや』と不満をぶちまけているという情報が飛んでいました。漏えい指示に信ぴょう性があることから、本当に井ノ本氏がそう言っているとの見方が強まっています。

さらに『知事がオレを売るなら、表に出てへんことをぶちまけたる』とも言っているとのうわさもあります。本人が言っているかどうか確認が出来ているわけではありませんが、斎藤知事の耳に入るように話は広がっています」(県関係者)

井ノ本氏はすでに処分の不服を申し立てた。「知事の指示」を裏付ける証拠を井ノ本氏が今後出してくるのか――。県関係者はかたずをのんで見守っている。                                  

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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