有名人の逮捕や活動休止に「占いピタリ的中!」記事に問題は 紀藤正樹弁護士「メディアの信頼損ねる」
04/11 10:49
俳優の広末涼子さんが傷害罪の疑いで現行犯逮捕された。4月8日に飛び込んできた速報は社会にも大きな衝撃を与え、メディアは関連する記事も相次ぎ出稿した。
その日、日本最大級のニュースプラットフォーム「Yahoo!ニュース」のアクセスランキングで総合1位に躍り出たのは、ある占い師がYouTube動画で3月31日に公開した「占い」の内容が、広末さん逮捕を予言していたのではないかとするSNSの反応を取り上げた記事だった。
著名人が逮捕されるといった出来事が起きたときに、「あの占いが当たっていたのではないか」とする“声”を紹介するような記事はこれまでもメディアで扱われてきた。
「占いを無理に信じさせたりするような取り扱いはしない」と定めたテレビ・ラジオ業界の放送倫理のように、ネットニュースにも一定の基準が必要ではないかと紀藤正樹弁護士は指摘する。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●広末さん逮捕の日、最も読まれた「逮捕、ピタリ的中」俳優の広末さんが交通事故を起こし、病院で看護師を蹴るなどとして傷害罪で逮捕されたという報道、そのうえで芸能活動を自粛するという知らせには、少なくない人が驚いたことだろう。
速報が流れたその日のうちに、新聞・テレビ・ウェブメディアによる広末さんの関連記事が多数配信された。
そのような中で、よく読まれていたのが、冒頭のニュースサイトの記事だった。
今回に限らず、いくつかのメディアは、大きな出来事が起きたときに、占いや予言について「当たっていたとして話題」などと伝える記事を出している。
インターネットではないが、テレビやラジオの番組・広告などが守るべき日本民間放送連の放送基準は、表現上の配慮として「占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない。」としている。
占いについて、メディアの側が「無理に信じさせたりするような取り扱いはしない」という考えだ。
先の放送基準は、2023年の改正で、信教の自由には「信じない自由」も含まれていることを明確化するため、「信教の自由を尊重する」ことに加えて、「信仰の強要につながったりするような表現は取り扱わない」という記載を追加してバランスをとった。
放送における占いをめぐっては、2007年に全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が占いなどを絶対視する傾向のある番組を是正する要望書をNHKや民放連などに送っている。
占いを日々の小さな糧にしたり、人生の指針を決める際に役立てたりしている人もいて、占い自体がすべて有害なものではない。しかし、メディアが「的中」と見出しをつけて、占いの内容にお墨付きを与えるかのような記事を届ける態度には何か問題はないのだろうか。
メディアの問題にくわしい紀藤正樹弁護士に聞いた。
●占いめぐるメディアの責任を考える——今回のような記事をどう受け止めましたか
一般的に現在のウェブメディアは、書いた記事のアクセス数が上がることがサイトの売上につながり、記事を書いた記者も評価されるような形になっています。
著名な芸能人が逮捕される事件が起きれば、その芸能人に関連してとにかくアクセス数を稼ごうというメディアもあるわけです。
今回の記事は「占いが当たったのではないか」というSNSの声があるという「事実」を紹介する形の記事を出しています。ただ、見出しは「〝広末涼子逮捕〟ピタリ的中」とあり、読者はどう受け取るでしょうか。
このような記事を読んだ一定の読者は、興味を持ってその占いの動画を見に行くことでしょう。
占いや占い師がすべていけないものだとは言いません。今回の記事が取り上げた占い師のかたを批判するものでもありません。しかし、占いを悪用して、霊感商法の入口にするような トラブルがあることには注意が必要です。
そのようなトラブルが起きれば、当然ながら記事を出したメディアの責任も問われます。
過去には、掲載記事に医学的に根拠のない誤った医療情報が含まれていたニュースサイトが問題となり非公開になったこともありました。
私には今回の記事がタイアップや広告のようなものに見えました。メディアには表現の自由もあります。ただ、報道機関やメディアが占いを扱う場合には、無批判に扱うべきでないケースもあると思いますし、放送倫理を定めた放送基準のように、一定程度の基準を設けなければ、メディア全体の信用度が下がることになりかねません。
【取材協力弁護士】
紀藤 正樹(きとう・まさき)弁護士
1960年、山口県宇部市生まれ。大阪大卒、同大院博士前期課程(憲法専攻)修了。2020年6月から日弁連消費者問題対策委員会の筆頭副委員長。安愚楽牧場や神世界など多くの消費者被害対策弁護団長を歴任している。2022年、弁護士ドットコムと「週刊東洋経済」の共同企画「弁護士が選ぶ弁護士ランキング」の消費者・金融部門で1位。『決定版マインドコントロール』(アスコム)など著書多数、最新刊は『議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SBクリエイティブ)。
http://masakikito.com/
事務所名:リンク総合法律事務所
事務所URL:http://linklaw.jp/