参院選で、自公政権を過半数割れさせる方法…鍵は32ある1人区にあり「石破政権は国民が望む減税をしない」経済誌元編集長

参議院選挙が7月3日に公示された。国民からは減税など国民負担率を低減する政策を求める声が大きくなっているが、自民党幹部らは「消費税を守り抜く」などと否定し、従来通り、選挙前恒例のバラマキで国民の支持を得ようとしている。そんな姿勢に国民は愛想をつかしたのか石破政権の内閣支持率は低迷しているが、それでも選挙となれば組織力と“基礎票”を持つ自民党の壁は野党にとっては高い。自公政権をどうやったら過半数割れさせることができるのか、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説する。 

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消費税減税・ガソリン減税に、明確に否定的な石破政権 

7月3日に公示された参議院選挙は、政権に対する単なる中間評価ではない。

日本の政治の枠組みそのものを左右する極めて重要な分岐点である。石破政権を支える自民・公明両党の連立与党が、参議院で過半数を維持できるか否か。この結果は、今後の国の方向性、とりわけ国民の生活に直結する経済政策を根本から変える力を持つ。

「自公政権を過半数割れに追い込むこと」は、一部の野党支持者だけが叫ぶスローガンではない。現状の政治と経済に閉塞感を抱く多くの国民にとって、具体的な選択肢となりうる。

過半数割れを目指すための明確な大義は存在し、目標達成のための具体的な戦術も存在する。有権者一人ひとりが、来る選挙で投じる一票の重みを理解し、戦略的な視点を持つことが今ほど求められている時代はない。

自公政権の継続がもたらす未来を占う上で、石破茂首相および政権幹部の経済政策に対する基本姿勢を見過ごすことはできない。

石破首相はかねて財政規律を重んじる姿勢で、かつ、その規律は歳出削減でも経済成長でもなく、増税によって達成されるという信念を持っていることで知られ、消費税減税・ガソリン減税に、明確に否定的な立場を取ってきた。

社会保障制度の維持を大義名分とし、その財源として消費税が有力な選択肢であるとの発言を繰り返している。この姿勢は、政府が示す「骨太の方針」にも色濃く反映されており、将来的な国民負担率の上昇は避けられないと主張している。

 石破政権が続く限り、国民の可処分所得は圧迫される 

このまま社会保障制度が維持されると思っている国民は少数派だろう。だったら、受益者に負担させる、年金も積立にするという制度の抜本改革をすべきなのに、高齢者票が怖くてそれができずに震えているのが、現在の石破政権である。

経済成長による税収増を目指すという前向きなビジョンよりも、痛みを納税者に強いることで帳尻を合わせようとする発想が根底にある。石破政権が続く限り、国民の可処分所得を圧迫し、景気の足を引っ張る「実質的な増税路線」が継続される可能性は極めて高い。その上で、現金給付を実行し、農家には莫大なバラマキをするのだという。

この政権の体質と国民への姿勢を最も象徴的に示したのが、6月の通常国会最終盤に起きた「ガソリン減税法案」の廃案劇であった。立憲民主党をはじめとする野党7党は、ガソリン税の暫定税率を廃止する法案を共同提出した。

各種世論調査で国民の7割以上が支持した、まさに民意を体現した法案であった。物価高に喘ぐ国民生活を直接的に支援する政策は、多くの有権者の切実な願いであった。与党はこの民意を正面から踏みにじった。

「石破政権が議会の過半数を握り続ける限り、国民が望む減税は実現しない」という厳しい現実が、この一件ではっきり見えてきた。ならば過半数を割らせることこそが、葬られた民意を蘇らせる唯一の道である。

有効となるのが、相手の失政や矛盾を徹底的に突く「ネガティブ・キャンペーン」 

議会で過半数を奪うという目標は、精神論では達成できない。具体的な数字の積み重ね、すなわち戦略と戦術によってのみ実現可能となる。

ここで有効となるのが、相手の失政や矛盾を徹底的に突く「ネガティブ・キャンペーン」だ。これは単なる悪口や誹謗中傷ではない。民主主義を機能させるための科学的根拠に基づいた有効な戦術である。

アムステルダム大学のアレッサンドロ・ナイ准教授は、そのメカニズムを学術的に解明している。2024年に発表された論文「なぜ我々は(再び)ネガティブ・キャンペーンに注目すべきか、そして今後の課題」の中で、ナイ准教授は以下のように論じている。

「現代政治は暗くなっている。政治家は互いを攻撃し、その否定的側面に驚く者もいるだろう。認知心理学の研究は、否定的に構成された情報が肯定的な情報よりも記憶に残りやすく効果的であることを示している。

ネガティブ・キャンペーンは、有権者の政治的有効性感覚や政府への信頼をわずかに低下させる可能性を示唆する。より懸念されるのは、近年の研究が、ネガティブ・キャンペーンが感情的分極化の文脈的要因として作用しうることを示唆している点だ。

内集団と外集団の溝が深まる中で、政治家が互いに激しく対立する様を見ることは、政治的分断を越えて人々を和解させることにはつながらないだろう。攻撃的なレトリックへの暴露が、政治的に動機づけられた暴力への支持を高める可能性を示唆する予備的証拠も存在する」

この研究が示すように、人間の脳はポジティブな情報よりもネガティブな情報を強く記憶する。自民党がアピールするであろう漠然とした実績よりも、「年収の壁を壊すことへの妨害」や「ガソリン減税の採決拒否」といった具体的な失政を繰り返し訴えるほうが、有権者の記憶に深く刻まれ、投票行動に直接的な影響を与える。

「なんとなく自民党」と投票してきた層に対し、政権の腐敗や民意軽視の姿勢を突きつけることは、「このままで本当に良いのか」という健全な批判精神を喚起するというわけだ。

主戦場は、全国に32ある定数1の「1人区」 

この精神こそが、政治的無関心や思考停止の状態を打ち破り、有権者に主体的な判断を促す起爆剤となる。自民党の不正や失政を批判することは、民主主義の番人たる野党に課せられた道徳的に正当な責務でもあるのだ。

主戦場は、全国に32ある定数1の「1人区」である。ここでは勝者が議席を総取りするため、野党が候補者を一本化できるかどうかが勝敗を決定づける。2022年の前回参院選では、自民党が32の1人区のうち28で勝利し、圧勝した。

自公政権の過半数割れは、政治変革のゴールではなく、新たな政治力学が生まれるスタートラインに過ぎない。有権者は、その先の政界再編シナリオまでを読み解き、賢明な一票を投じる必要がある。

野党にだって不安な要素は多い。維新は創設者である橋下徹氏の強い影響下にある吉村洋文氏と前原誠司氏が「年収の壁、撤廃」という大型減税案を潰し、教育費の全額税金負担で石破政権と手を結んでしまった。

各党党首の発言の裏にある本音と戦略 

選挙に勝つために減税を主張する政党は多いが、維新はその典型例だろう。維新から国民民主に移って立候補をしている足立康史候補は社会的リベラルだと自分の立ち位置を明示し、増税や国民負担増への意欲を隠そうとしていない。

参政党も党首をはじめとした党員たちの非科学的な主義主張が気になってしまう人も多いのではないか。逆に公明党は衆院選以降、減税を強く主張してきたのであるから、自民党批判とは濃淡があって然るべきであろう。

全ては与党の過半数割れを目指すという前提はあるものの、個々の選挙区では単純な判断がしにくいところではあるから、あとは有権者が各々の良識や信念にしたがって審判を下すということになるだろう。

今回の参院選は、有権者が単に政党を選ぶだけの選挙ではない。自公過半数割れの後に、どのような政治の形を望むのか。有権者一人ひとりが、自らの理想とする未来図を描き、それを実現するための駒としてどの政党、どの候補者が最もふさわしいかを見極める「政界のプロデューサー」としての役割を担っている。

各党党首の発言の裏にある本音と戦略を冷静に分析し、自らの一票がどの未来の実現に繋がるのかを深く洞察することが、日本の政治を前に進める唯一の力となる。

文/小倉健一

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