もう飽きられた? 四国DMV「乗客2割減」で大暗雲、駅には鉄オタたった2人だけ 牟岐線も存続危機で今後どうなる

鉄道ファンは駅にふたりだけ

開業効果が消えたなか、阿波海南駅前に到着したDMV(画像:高田泰)

開業効果が消えたなか、阿波海南駅前に到着したDMV(画像:高田泰)

 線路と道路の両方を走るデュアル・モード・ビークル(DMV)で徳島県南部と高知県東部を結ぶ阿佐海岸鉄道が、開業効果の収束で苦境に立たされている。挽回はなるのか。バスモードで国道55号を走るDMVが、徳島県海陽町のJR阿波海南駅前に姿を見せる。鉄道モードに切り替える“見せ場”なのだが、鉄道ファンでいっぱいになった2021年12月の運行開始時の雰囲気はない。

 6月上旬の週末、モードチェンジにカメラに向ける鉄道ファンはふたりだけ。車内に乗客はいなかった。

 駅の駐車場に高知と岡山ナンバーの乗用車があった。写真撮影していた鉄道ファンのものらしく、ふたりはDMVが出発すると乗用車で立ち去った。

「DMVが走り始めたころは鉄道ファンがたくさん来たが、最近は少ない。飽きられたのかも」

駅前のコンビニで地元の女性が寂しそうに話した。

開業効果収束で赤字拡大

DMV(画像:写真AC)

DMV(画像:写真AC)

 DMVは海陽町の阿波海南文化村から阿波海南駅前まで道路を走ったあと、高知県東洋町の甲浦信号場まで阿佐東線を走行、再び道路に降りて海の駅東洋町から海陽町の道の駅宍喰温泉へ向かう。運行本数は

・平日:8往復
・土日祝日:11往復

だ。土日祝日には高知県室戸市のむろと廃校水族館や海の駅とろむまで1往復運行するほか、2023年8月には、土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線が発着する高知県奈半利町の奈半利駅まで1日限定便を走らせた。海陽町観光交流課は

「今年も運行を計画している」

という。しかし、阿佐海岸鉄道の2023年度決算は経常損失が9694万円となり、赤字額が前年度の8667万円を上回った(約12%増)。経常収支は1992(平成4)年の開業以来、一度も黒字になることなく、32年連続の赤字。経営安定基金からの助成金など特別利益を加えても、886万円の当期純損失が出た。

 乗車人員は約3万1300人。開業当初は年間18万人近い利用があったが、5分の1以下に落ち込んだ。前年度と比べても、21.1%の減少で、開業効果の収束は明らかだ。3月には月、木、金曜日の13往復を火、水曜日と同じ8往復に減便した。

アクセスの悪さ解消できないまま

DMV(画像:写真AC)

DMV(画像:写真AC)

 阿佐海岸鉄道は徳島、高知の両県と沿線・近隣の地方自治体などが出資する第三セクター。海陽町の海部(かいふ)駅と東洋町の甲浦駅間8.6kmを結ぶ鉄道路線の阿佐東線を運行してきた。

 しかし、沿線の急激な人口減少や少子高齢化で2010年度に年間輸送人員が3万人台に落ち込んだ。その後、利用促進で多少盛り返したものの、2019年度の輸送密度(1km当たりの1日平均輸送人員)は

「135人」

で、存廃論議が起きてもおかしくない閑散路線であることに変わりない。

 このままでは“じり貧”を打開できないとして、徳島県主導で導入したのが世界初の営業運転になるDMVだ。この際、高さ8mの高架駅である海部駅では道路との接続に用地買収が必要になるため、JR四国からJR牟岐線の阿波海南~海部間1.5kmの譲渡を受け、地上駅の阿波海南駅を起点駅にした。

 阿佐東線は旧日本鉄道建設公団が徳島県牟岐(むぎ)町と高知県南国市間に建設していた阿佐線の一部。1980(昭和55)年に国鉄再建法施行で工事が凍結されたが、阿佐東線区間がほぼ完成していたことから、地域の足となる鉄道として利用してきた。しかし、DMV転換には

「地域の観光アトラクション」

に軸足を移す狙いがある。DMV発進式では、当時の飯泉嘉門徳島県知事が

「四国観光の起爆剤に」

と声を張り上げた。その思惑通りに初めて通年でDMVが運行した2022年度は、観光利用の急増で輸送人員が約4万7800人と前年度の2倍以上に増えた。だが、開業効果も1年ほどで消えた。

 海陽町には20種以上のサンゴが生息する竹ヶ島海中公園、景勝地の水床(みとこ)湾、東洋町にはサーフィンの好スポットとして知られる生見(いくみ)海岸など観光素材として有望な場所があるが、全国的な知名度は低い。

 阿佐東線が行き止まりの路線であるうえ、アクセスの悪さも問題だ。徳島市からは牟岐線普通列車で2時間以上。高速道路がないため車でも約2時間かかる。高知県高知市からだと車で約2時間半。DMVの“珍しさ”だけで観光客を呼び込むのに厳しい面がある。

沿線自治体に迫る消滅の危機

JR四国があり方協議を模索する牟岐線の列車(画像:高田泰)

JR四国があり方協議を模索する牟岐線の列車(画像:高田泰)

 DMVにはツキもなかった。

 当初は2020年度末に運行を始める予定だったが、コロナ禍で受け入れ準備が整わず、2021年12月まで延期された。運行開始のニュースもコロナ禍にかき消された。

 運行開始の半年後に就任した代表取締役専務が自身の経営する広告会社への融資で詐欺をしたとして徳島県警に逮捕され、実刑判決を受ける不祥事があった。専務就任前の事案だが、阿佐海岸鉄道の社長は海陽町長が兼務しているため、実質的な会社のトップ。DMVのイメージダウンにつながった点は否めない。

 さらに、JR四国の西牧世博社長(当時)が2023年4月の記者会見でDMVに接続するJR牟岐線阿南~阿波海南間のあり方協議に入りたい考えを示した。徳島県の調査ではDMV利用者の約3割が牟岐線で現地を訪れている。廃止となればDMVが孤立路線になる。

 開業効果が長く続かないことは関係者も織り込み済みだが、現状打開の名案は簡単に浮かばない。それでも徳島県交通政策課は

「徳島空港に就航した台湾との国際線チャーター便の乗客をDMVに乗せたところ、好評だった。今後もチャーター便を活用して盛り上げたい」

とあきらめていない。海陽町観光交流課は

「本年度は町としてPRにSNSの有料広告を利用する。台湾からの観光客は4泊5日程度の日程で四国を一周しており、この日程にDMVを組み込み、展望を開きたい」

と力を込めた。

 沿線2町の人口は1995(平成7)年からの25年間で4割近く減り、約1万人まで落ち込んでいる。65歳以上が全人口に占める割合を示す高齢化率は、2020年の国勢調査で

・海陽町:47%
・東洋町:51%

人口戦略会議からは消滅可能性都市に挙げられた。地域の存続に危機が迫るなか、DMVは正念場を迎えている。

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