鉄道利用者の減少で逆に注目? 全国各地の「鉄道公園」、その魅力を再考する

埼玉県にオープンした英国式パーク

ガーデンパーク(画像:鶴ヶ島市)

ガーデンパーク(画像:鶴ヶ島市)

 6月9日、埼玉県中部に位置する鶴ヶ島市に「ガーデンパーク」がグランドオープンした。機関車とナチュラルガーデンが融合した英国式ガーデンパークである。

 同市のふるさと納税のパートナー企業でもある、鉄道模型「KATO」で有名な関水金属(東京都新宿区)は、鶴ヶ丘地内に建設する新工場を、周囲に塀を設けない地域に開かれた

「まちなか工場」

としており、工場敷地内の緑地約5000平方メートルを一般に開放。さらに隣接する鶴ヶ丘児童公園約2400平方メートルをリニューアルして、一体的に整備している。

 敷地内には全長約620mの線路を敷設。「三線軌条」というふたつの線路幅(軌間762mmと610mm)が併用する珍しい軌道で、イベント時などには機関車(軽便鉄道)が走行可能である。線路の枕木を利用したサイドウォークもあり、通常時は自由に散策することができる。

 また、園内に設置されたレンガ調の機関庫はプラットホームも含めて英国をイメージして作られ、この機関庫には三つの線路が入り、国内外から集められた約10両の車両が常設展示されている。ガーデンパークは鉄道とイングリッシュガーデンの組み合わせの意外性もあって、オープンのニュースはテレビメディアでも取り上げられた。

 しかし、イングリッシュガーデンではないものの、鉄道と公園が融合した、いわゆる

「鉄道公園」

は意外と全国に存在している。基本的に施設の機能は鉄道の博物館・展示施設であるが、敷地内は芝生や植栽が整備されてあって散策することができ、なか遊具なども設置されて子どもが遊べるようになっていたりする。

全国各地の鉄道公園

青梅鉄道公園(画像:東日本旅客鉄道、東日本鉄道文化財団、青梅市)

青梅鉄道公園(画像:東日本旅客鉄道、東日本鉄道文化財団、青梅市)

 鉄道公園では「青梅鉄道公園」(東京都青梅市)が有名である。日本国有鉄道の「鉄道90周年事業」として1962(昭和37)年にオープンした施設で、蒸気機関車に加え、電車、新幹線が屋外展示され、ミニSLの「弁慶号」もある。

 地域のレジャー施設として利用されていたが、現在は設備の老朽化もあってリニューアル中であり、来年いっぱいまで休園している。今回は「鉄道開業150周年記念事業」として

「中央線・青梅線の鉄道の歴史を伝える学びの場」

をコンセプトにリニューアルし、展示車両も拡充する予定だ。

 また、秩父鉄道終点三峰口駅に位置する「SL転車台公園」(埼玉県秩父市)は、老朽化により解体撤去した鉄道車両公園の跡地を利用し、「創立120周年記念事業」として2019年より整備を進め、2020年にオープンしている。公園のテーマは

「地域の自然と鉄道の調和」

だ。SL転車台を中心に遊歩道に沿って沿線市町にちなむ樹木を植樹、季節ごとに咲く花を楽しめる。三峰口駅に到着したSLパレオエクスプレスが熊谷へ戻るために蒸気機関車の向きを回転させるSL転車作業を間近に見学することができる。

 そのほかにも全国には

・丸瀬布森林公園いこいの森(北海道遠軽町)
・幸福交通公園(北海道帯広市)
・小坂鉄道レールパーク(秋田県小坂町)
・くりはら田園鉄道公園くりでんミュージアム(宮城県栗原市)
・ポッポの丘(千葉県いすみ市)
・直江津D51レールパーク(新潟県上越市)
・新幹線公園(大阪府摂津市)
・有田川町鉄道公園(和歌山県有田川町)
・柵原ふれあい鉱山公園(岡山県美咲町)
・志免鉄道記念公園(福岡県志免町)
・志布志鉄道記念公園(鹿児島県志布志市)

などの施設がある。これらはほんの一部であり、小規模な施設も入れると枚挙にいとまがない。

・三笠鉄道村(北海道三笠市)
・碓氷峠鉄道文化むら(群馬県安中市)

など公園とは称していないが屋外に同様の展示スペースを持つ施設もある。

経済成長期の鉄道遺産

千葉県いすみ市にあるポッポの丘(画像:TRJN)

千葉県いすみ市にあるポッポの丘(画像:TRJN)

 これらの施設は

「日本の鉄道技術・鉄道文化の伝承」

を目的のひとつとしており、かつて運行していた車体や鉄道施設・設備を展示している。車両は屋外の露天(雨露をしのぐための上屋は設置されている)で展示されており、何台も展示している施設はある程度の面積がある。見学できるよう周辺を芝生などで整備していたりするため、必然的に公園的な施設となっている。

 鉄道公園のなかでもよく見られるのは、かつて利用されていた駅舎を活用し、そこで車両を屋外展示して周辺を整備しているものだ。

 このような鉄道公園は廃止された路線の施設跡地に開発されていることが多い。炭鉱の石炭輸送のために作られた鉄道が廃線となったものや、1980年代に国鉄分割民営化を前に廃止されてバス路線となったものなどである。

 日本の経済発展黎明期から高度経済成長期までを支えてきた路線で、長く地域住民の生活や地域産業に寄り添ってきたことから、その記憶を後世まで残すために公益性のある施設として整備された。鉄道施設の跡地活用の一環であり、記念碑である。

地域の新たな観光資源

大阪府摂津市にある新幹線公園(画像:摂津市)

大阪府摂津市にある新幹線公園(画像:摂津市)

 廃線は産業構造の変化にともない全国の地方都市で見られたため、鉄道公園の整備も各地で見られる。

 当時を懐かしむシニア層だけでなく、子どもをはじめとして多くの人に鉄道への理解を深めて興味を持ってもらうため、

「誰もが利用する公園」

という形が適していたのだろう。公園というには規模の小さい施設が多いが、その一方で鉄道施設の跡地のなかにはまとまった面積を持つものもあり、新たなにぎわい創出の役割を担ったものもある。

・子連れファミリーのレジャーの受け皿
・地域の観光資源

として機能している施設も少なくない。そもそも、「乗り物遊び」は小さい子どもがはじめる遊びのひとつである。通常の遊園地でも

・ミニトレイン
・ミニSL
・モノレール

などの乗り物の大型遊戯機器が導入されている。鉄道公園のなかにはレールが整備され、走行デモンストレーションや乗車体験ができるイベントがあり、それ自体が目玉のアトラクションとなっている。蒸気機関車は特に人気があるだろう。廃車の有効活用である。

減少する鉄道利用者

秋田県小坂町にある小坂鉄道レールパーク(画像:小坂まちづくり)

秋田県小坂町にある小坂鉄道レールパーク(画像:小坂まちづくり)

 なかには展示してある車両や駅舎で宿泊できる施設も見られる。

 前述した、秋田県北東部に位置する小坂町の小坂鉄道レールパークでは上野~秋田・青森方面を運行していた寝台特急「あけぼの」24系客車が「ブルートレイン あけぼの」として宿泊施設となっている。

 そのほかにも、冬場はイルミネーションで車両を飾ったり、キャンプができたり、バーベキューができたり、花の名所となっていたりと、地域のレジャー資源としてさまざまな活用がされている。

 現在、地方では人口減少にともない鉄道利用者が減少、住民の足となっていた地方鉄道は経営の持続が困難になっている。そのため、国の政策もあって鉄道路線からバス路線などに変更することが各地で検討されており、今後は廃線となる路線が増えていく可能性がある。そうなると跡地には記念となる鉄道公園が増えていくのか、かつてと異なる時代性のなかでどうなっていくのか着目したい。

 夏休みには車両走行のデモンストレーションを行う鉄道公園もあるだろう。近場の鉄道公園に足を運んでみてはいかがだろうか。

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