トヨタ、EV戦略に急ブレーキ! レクサス「全車EV化」撤回検討の理由とは? 認証不正の影響? 戦略変更を繰り返す理由を考える

「レクサスEV化撤回」揺らぐ戦略軸

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 市場成長の鈍化が続くなかでも、電気自動車(EV)の普及は緩やかに進んでいる。そうした状況下で、トヨタ自動車は「マルチパスウェイ戦略」を展開してきた。しかし、同社の戦略に変化の兆しが見え始めている。

 日刊自動車新聞は2025年3月25日、トヨタが2035年に高級ブランド「レクサス」をEV専用ブランドにする方針の撤回を検討していると報じた。さらに、同社が福岡県で計画していたEV向けリチウムイオン電池工場の建設を延期する方針も、複数のメディアが伝えている。

 トヨタはなぜ戦略を転換するのか。本稿では、その背景を探り、マルチパスウェイ戦略が今後どのように加速するのかを考察する。

EV戦略の変遷

「C-HR+」(画像:トヨタ自動車)

「C-HR+」(画像:トヨタ自動車)

 まず、トヨタがこれまで進めてきたEV戦略を振り返る。2021年、当時の社長・豊田章男はEV戦略を発表し、EV販売台数を2026年に150万台、2030年に350万台(レクサスの100万台を含む)とする目標を掲げた。しかし、その後の見直しで2026年の目標は100万台に修正され、2025年2月にはさらに80万台へと下方修正された。

 トヨタは、この数字を需要があれば生産できる基準とし、市場の動向に応じて柔軟に調整すると説明している。度重なる修正の背景には、EV市場の減速がある。特に2024年からEV販売の伸び悩みが顕著となり、レクサスの全車EV化計画の撤回が検討されるなか、2030年の目標も下方修正される可能性が高まっている。

 一方で、EV市場が成長する地域では戦略を強化する。中国では第一汽車や広州汽車との合弁事業を継続しつつ、レクサスは単独資本の子会社を上海に設立し、市場攻略を本格化させる。競争が激しい中国市場では、短期間でのEV開発体制を整え、現地メーカーに対抗する狙いだ。

 欧州では、2026年までにトヨタとレクサスブランドで14車種のEVを投入し、EV比率を20%に引き上げる。販売目標は25万台とし、特に小型・中型SUVセグメントの競争力を強化する方針だ。

 こうした動きを見ると、トヨタのEV戦略は市場ごとに異なるアプローチを取っていることがわかる。全体的にはブレーキをかけながらも、成長が見込める市場では攻勢を強める一方で、EV以外の選択肢も広げる。この柔軟な対応こそがトヨタのマルチパスウェイ戦略の本質といえるが、単なるリスク分散にすぎないとの批判も根強い。

トヨタがEV戦略を見直す背景

 トヨタは2023年10月、福岡県にEV用電池工場を建設すると発表した。当初はEV需要の増加を見込み、生産能力を拡充する計画だった。しかし、市場の成長鈍化やコスト高を背景に、工場建設を延期した。建設を中止するわけではなく、市場動向を見極めながら持続可能な経営戦略を模索するとしている。

 レクサスの全車EV化方針の撤回も、業界全体の動きと無関係ではない。メルセデス・ベンツやボルボも、当初掲げていた2030年までの全車EV化計画を撤回している。EVシフトの見直しを迫られる自動車メーカーは増えている。

 さらに、レクサスの主力市場である米国では、トランプ政権がEV補助策の廃止を打ち出し、バイデン前政権のEV振興策が見直されつつある。政策変更によるEV需要の不透明感が強まり、トヨタは柔軟な対応を重視している。トヨタのEV戦略見直しは、単なる需要変動だけでなく、多角的な要因を考慮したものだ。

方針転換を迫られるトヨタ

トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)

トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)

 トヨタがEV戦略の見直しを進める背景には、世界的なEV需要の鈍化がある。しかし、それだけではない。日本国内でのEV普及の遅れや、依然としてエンジン車やハイブリッド車(HV)への関心が根強いことも要因だ。こうした状況を踏まえ、トヨタは今後もEV戦略とマルチパスウェイ戦略を柔軟に修正していくとみられる。

 また、2024年発覚した認証不正問題も、トヨタの意思決定に影響を与えている。不正の背景には短期間の開発目標があり、過度な目標設定が社内の圧力を生み出したと分析されている。そのため、EV開発でも拙速な目標設定を避け、慎重な判断を優先する方針へと転換した。

 EV販売目標の修正や開発スピードの緩和も、この方針の一環と考えられる。短期間での開発や過度な目標設定を強行すれば、品質問題を招き、コンプライアンスリスクが高まる可能性がある。トヨタはこうしたリスクに配慮しつつ、市場動向を冷静に見極め、長期的な視点で持続可能な戦略を模索している。

HVとFCV強化へ舵 トヨタの多角戦略

トヨタ・大型商用車向け第三世代FCシステム(画像:トヨタ自動車)

トヨタ・大型商用車向け第三世代FCシステム(画像:トヨタ自動車)

 トヨタは、EVシフトが進む地域では積極的にEV展開を進める一方、日本や北米市場ではHVや燃料電池車(FCV)に注力する方針を維持する。

 特に、HVではさらなる燃費向上を図り、新型車種の投入を強化する。FCVについても「第三世代FCシステム」を発表し、商用分野のニーズに対応する構えだ。

 EV市場は今後も需要変動を繰り返しながら緩やかに成長すると見られる。トヨタは、その変化を捉え、柔軟かつ持続可能な自動車産業の未来を築こうとしている。認証不正問題を経た現在、短期間でのEV開発を見直し、戦略の軌道修正をさらに進める方針だ。今後の動向が注目される。

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