「本当に必要なのか」 四国新幹線、悲願の実現に黄信号? 岡山市長は血気盛んも、県は慎重! 徳島はバス優位…1.6兆円かける意味はあるのか

岡山の人流増加を期待

岡山ルートの起点となるJR岡山駅(画像:高田泰)

岡山ルートの起点となるJR岡山駅(画像:高田泰)

 岡山市の大森雅夫市長が四国新幹線推進に前向きな発言を繰り返している。新幹線を熱望する四国には追い風だが、実現へのハードルが下がったわけではない。

「四国新幹線は積極的に対応すべきだ。岡山が起点になり、多くの人に来ていただける」。連休前の4月末、大森市長は記者会見で四国新幹線の推進に前向きな考えをあらためて示した。理由は、

・新幹線ネットワークが四国だけ整備されていない
・岡山に人の流れが来て、大きなプラスとなる

の2点。大森市長は建設省(現国土交通省)の官僚時代、熊本県に出向し、九州新幹線開業を目の当たりにした経験を持つ。その際、沿線の福岡、熊本、鹿児島県鹿児島の3市が開業効果で大きく人流を増やしたことから、四国新幹線で再現を目指そうというわけだ。岡山市事業政策課は

「四国新幹線実現に向け、市長から指示が出たわけではない。市長が四国新幹線に対する見解を示したと受け止めている」

と冷静な口ぶりだが、4県がスクラムを組んで推進を訴える四国には追い風だ。大森市長は2月に香川県高松市であったシンポジウムでも、同様の発言をした。香川県交通政策課は

「岡山市長の発言は非常にありがたい。これを機に機運をさらに醸成し、整備計画への格上げを目指したい」

と力を込めた。

費用便益比1超で動く4県連携

新幹線の運行が可能な瀬戸大橋(画像:高田泰)

新幹線の運行が可能な瀬戸大橋(画像:高田泰)

 四国の新幹線は1973(昭和48)年、大阪市を起点に徳島県徳島市、高松市、愛媛県松山市付近を通って大分県大分市に至る四国新幹線と、岡山市を起点に高知県高知市へ向かう四国横断新幹線が基本計画に入った。

 四国横断新幹線は鉄道併用橋の瀬戸大橋を通ることができるが、四国新幹線は紀淡海峡と豊予海峡に橋か海底トンネルを整備しなければならない。建設費は兆単位のばく大な額になる見通しで、国の財政難が深刻さを増すなか、近い将来に実現可能な計画と考えにくい。

 そこで、四国4県は岡山市から瀬戸大橋経由で香川県に入り、分岐して徳島、高知、松山を目指す岡山ルートを想定している。基本計画路線の四国新幹線徳島~松山間と四国横断新幹線を組み合わせた形で、4県知事や経済団体トップらで構成する四国新幹線整備促進期成会は費用便益費(費用に対して、どれだけの便益(利益)が得られるかを数値で示す指標。1を超えると投資価値があるとされる)が1を上回って着工条件をクリアするとしている。

1.6兆円試算の現実味

JR高松駅で出発を待つ快速マリンライナー(画像:高田泰)

JR高松駅で出発を待つ快速マリンライナー(画像:高田泰)

 しかし、岡山県は慎重姿勢を崩していない。伊原木隆太知事は県議会での答弁や記者会見で四国新幹線が岡山県の拠点性向上、経済圏や交流人口の拡大につながる可能性を認めながら、

・巨額の建設費
・並行在来線の経営分離
・利用価値が高い快速マリンライナー運行への影響

を懸念してきた。

 四国期成会は岡山ルートの概算事業費を1.57兆円と推計するが、建設費は1km当たり50億円で計算した。昨今の資材費、人件費高騰やトンネルの難工事で北海道新幹線の札幌延伸区間は1km当たり100億円を越える見通し。この推計額で済みそうもない。

 整備新幹線の建設費はJR各社が払う貸付料を除いた額を国と都道府県が2対1の割合で負担する。JR岡山駅(岡山市北区)からJR西日本、JR四国の境界となる児島駅(岡山県倉敷市)までは在来線の瀬戸大橋線で27.8km。岡山県は巨額の負担を迫られる。

 並行在来線の経営分離があれば、対象は瀬戸大橋線とみられる。岡山県が第三セクターで経営を引き継げば、この負担ものしかかる。しかも、瀬戸大橋線の経営分離で宇野線が孤立路線になり、沿線住民の利便性が低下しかねない。

岡山県は依然、慎重姿勢

岡山市の中心市街地に当たる表町商店街(画像:高田泰)

岡山市の中心市街地に当たる表町商店街(画像:高田泰)

 四国新幹線が岡山駅周辺のにぎわいにつながらないとの見方もある。四国の人口は約350万人。横浜市より少なく、2045年には280万人に減ると予測されている。しかも、四国は関西との結びつきが強い。岡山市表町商店街の商店主は

「四国は人が少なすぎるうえ、大半が山陽新幹線で関西へ向かうのでないか」

と見ている。岡山県交通政策課は

「四国新幹線の法定調査があれば協力するが、その後のことは調査結果を見て精査する」

と従来通りの姿勢を示した。

徳島県の時短効果は限定的

3月で岡山乗り入れを廃止したJR四国の特急「うずしお」(画像:高田泰)

3月で岡山乗り入れを廃止したJR四国の特急「うずしお」(画像:高田泰)

 岡山ルートでの新幹線整備に賛同していなかった徳島県が、2023年の後藤田正純知事就任で賛同に転じたことにより、形の上では四国4県の足並みがそろった。しかし、一枚岩といえない部分も見える。徳島市周辺で岡山ルートへの関心が盛り上がっていないことだ。

 JR徳島駅(徳島県徳島市)周辺からは平日の午前7時台で大阪市や神戸市、京都市へ向かう高速バスが10本以上運行している。運行頻度は5分に1本程度。ビジネスだけでなく、観光、買い物にも利用されている。

 これに対し、岡山経由の鉄道で関西へ向かう人はごく少ない。1日2往復が岡山駅に発着していたJR四国の特急列車「うずしお」は、3月で全便高松駅(高松市)までとなった。JR四国は運転士不足を理由に挙げたが、利用も低迷していた。岡山経由で関西へ向かうと、運賃が

「高速バスの約3倍」

で、所要時間は1時間近く余計にかかったからだ。

 岡山ルートの新幹線ができても徳島駅から新大阪駅(大阪市淀川区)まで1時間35分。バスで高速舞子(神戸市垂水区)へ行き、JR舞子駅(垂水区)で快速、JR神戸駅(神戸市中央区)で新快速に乗り継げば2時間少しで着く。運賃ははね上がるのに、時短効果は限定的だ。

「重い地元負担をしてまで徳島に必要な新幹線なのか」

という声もある。

4県連携強化の正念場

高頻度で関西行きが発車するJR徳島駅前の高速バス乗り場(画像:高田泰)

高頻度で関西行きが発車するJR徳島駅前の高速バス乗り場(画像:高田泰)

 大森市長の発言は朗報といえても、状況に変化があったわけではない。

 実現に向けた課題は山積している。

 整備新幹線に次があるかどうかもはっきりしないだけに、4県のスクラムを強固にし、岡山県を巻き込んだ機運醸成をさらに進める必要がありそうだ。

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