陸路80kmを4kmに短縮! 日本最強(?)の「短絡フェリー」はなぜ存続の危機にあるのか? 勝手ランキングを通して考える
06/08 17:51
地図上の短絡フェリー
日本地図を眺めていると、「わざわざ遠回りをしなくていいのでは?」と思える部分には、短絡フェリー(長距離輸送経路を海上で短絡(ショートカット)するために運航されるフェリー)がある。
道路が整備されていても、やはり近道したくなるのが人の性(さが)だろうか。フェリーは、ゆったり、まったりしているので、せっかちな人にはちょっと苦手かもしれない。しかしながら、距離が短い分、所要時間が短くかつ値段も手頃で、さらには海上でしか味わえない景色もある。
そこで今回は、「短絡フェリー勝手ランキング」と称して、北から南までの短絡フェリーを紹介したい。
1日2往復のレアさが魅力の「むつ湾フェリー」
むつ湾フェリーは、青森県の津軽半島の蟹田港と下北半島の脇野沢港を結ぶフェリーだ。橋があれば便利なのにと思える、両半島がせまった部分あたりを運航している。
陸路だと約180kmだが、フェリーだと約20kmとなり160kmも節約できる。とはいえ、便数は多くはなく、1日2往復のレアさがかえって魅力といっていい。
また、運航期間も4月21日から11月5日と限られている。暖かい時期に、陸奥湾1周ドライブがてらに乗ってみたい航路だ。
アクアライン開業後も健在の「東京湾フェリー」
東京湾フェリーは、東京湾の入り口の両端にある久里浜港と金谷港を結んでいる。今では、東京湾の両端を結ぶといえば東京アクアラインだが、アクアライン開業後も健在だ。
東京アクアライン経由の陸路約110kmに対し、東京湾フェリーだと11.5kmと十分の一に短縮される。所要時間も40分と短いのも、渋滞知らずで使いやすい航路といえよう。国土交通省の船舶乗降人員ランキング(2022年)では、千葉県側の金谷港は約66万人と27位にランクインしている。港湾統計年報(2022年)の車種別台数によると、
・バス:775台
・トラック:1596台
・乗用車:14万2982台
・その他(軽トラック・トレーラー):927台
と、圧倒的に乗用車が多く、レジャーに欠かせない航路といっていいだろう(出典:国土交通省 港湾統計年報(2022年))
。
海上からの眺めも素晴らしく、東京湾も太平洋も堪能するなら東京湾フェリー一択だ
。
意外な映えスポット「駿河湾フェリー」
駿河湾フェリーは、静岡県の清水港と伊豆半島西部の土肥港を90分で結ぶ短絡フェリーであるが、つい見落としがちな航路かもしれない。もちろん、陸路で約100kmのルートが、フェリーでは約30kmとなる立派な短絡航路だ。
ふじさん駿河湾フェリーのウェブサイト上で「日本一深い駿河湾から日本一高い世界遺産富士山を楽しむ船旅へ」とうたわれているように、自然のロケーションに恵まれている。しかしながら、港湾統計年報(2022年)の土肥港の乗降人員は、9.4万人と決して多くはない。それもそのはずで、1日3往復しか運航されていないのだ。車種別台数は、
・バス:511台
・トラック:89台
・乗用車:2万6977台
・その他(軽トラック・トレーラー):66台
となっており、便数が少ないにもかかわらずバスの台数が東京湾フェリーに迫るいきおいである(出典:国土交通省 港湾統計年報(2022年))。
伊豆半島への観光旅行のコースに、組み込まれているということだろう。実際、太平洋と富士山の絶景を味わえる航路のポテンシャルは高い。コンビニ富士山が一時期話題となったが、「駿河湾フェリーからの富士山の方がもっと映えるのでは」と思っているのは筆者だけだろうか。
初日の出なら「伊勢湾フェリー」
東京湾入り口の東京湾フェリーが東の横綱ならば、伊勢湾入り口の伊勢湾フェリーは、西の横綱だろう。
伊勢湾フェリーは、渥美半島の先端部に位置する伊良子岬と三重の鳥羽を結んでおり、陸路で約220kmの距離が海路で約20kmまでに短縮される。船舶乗降人員ランキング(2022年)では、三重県側の鳥羽港は約110万人と第9位にランクインしている。
伊勢神宮や鳥羽といった世界的な観光地へのアクセス港であり、かつ島々を結ぶ重要なインフラということだろう。対岸の伊良子港は、乗降人員約28万人であり、単純計算では鳥羽港乗降客の約四分の一が伊勢湾フェリーの利用者となる。
元旦には、鳥羽港と伊良子港を6時30分に出港する臨時便があり、太平洋を昇ってくる初日の出を拝むことができる。伊勢湾フェリーの初日の出は、伊勢神宮への初詣とセットの定番コースだ。
乗降客数上位にランクイン「桜島フェリー」
船舶乗降人員ランキング(2022年)では、桜島フェリーが発着する鹿児島港が約381万人の第2位、桜島港が約225万人の3位である。ちなみに1位は、広島県の厳島(宮島)の約572万人だ。陸路で約80kmの道のりが、桜島フェリーだとわずか4kmとなる。桜島という観光地を抱えているだけでなく、生活インフラとしても重要な航路といっていい。港湾統計年報(2022年)の車種別台数は、次のとおり(出典:国土交通省 港湾統計年報(2022年))。
●厳島
・トラック:6万530台
・乗用車:7万6861台
・その他(軽トラック・トレーラー):3036台
●厳島
・桜島(鹿児島県管理)
・バス:3773台
・トラック:44万5908台
・乗用車:53万5510台
このように、厳島より桜島の方がトラック、乗用車の台数が圧倒的に多い。また、桜島は全国的にみても航送台数が突出している。厳島が参拝客メインの路線に対し、桜島フェリーは、観光航路として、あるいは地域住民の足として利用されているのだ。
桜島フェリーに、短絡フェリー第1位の称号をぜひ贈りたい。また、桜島フェリーは、24時間運航しているフェリーとしてもひそかに有名だ。ただ、24時間運航は、2025年10月から終了するという。背景には、利用客の減少による経営の圧迫があるそうだ。
これだけ利用者が多い桜島フェリーですら経営が厳しいのであれば、他の短絡フェリーはもっと厳しいだろう。短絡フェリーが少しでも多く取り上げられて、活性化できる方策はないものだろうか。