大型ミニバンに「5人乗り」がないのはなぜか?――少子化時代でも7~8人乗りが主流なワケ

ミニバンの利用実態は「5人以下中心か否か」

トヨタ アルファード Executive Lounge(ハイブリッド・E-Four)(画像:トヨタ自動車)

トヨタ アルファード Executive Lounge(ハイブリッド・E-Four)(画像:トヨタ自動車)

 大型ミニバンに5人乗りが出てこない背景には、日本社会の変化が深く関わっている。トヨタのアルファードやヴェルファイアには7人乗りや8人乗りがあるが、5人乗りは用意されない。市場の事情に理由がある。

 日本自動車工業会の「2023年度 乗用車市場動向調査」によると、2023年度の乗用車保有率は77.6%、複数保有率は35.7%。主な使い方は「買い物・用事・その他」が4割強で最も多く、走行距離も長い目で見ると減っている。多くの世帯にとって車は、買い物や送迎といった日々の短い移動を支える道具だ。

 だが大型車の価値は、日常を超えた大人数移動や行楽への対応力にある。ふだんは5人以下の利用でも、いざという時に多くの人を乗せられる余地に、利用者は高い金額を払う。一台で多くの用事をこなす生活のなかで、多人数移動という機能を外すと商品の魅力は大きく下がる。メーカーは最初から5人乗りに絞るより、7人乗りや8人乗りで作る方が市場で受け入れられると判断している。

過去の「4人乗り超高級仕様」の登場実績

豪華装備がそろった4人乗り仕様の「アルファード Spacious Lounge」(画像:トヨタ車体)

豪華装備がそろった4人乗り仕様の「アルファード Spacious Lounge」(画像:トヨタ車体)

 大型車で定員を減らした例はすでにある。トヨタは過去、アルファードをもとにした「ロイヤルラウンジ」という高級仕様を販売していた。3列目の席をなくし、後席をふたりとした4人乗り(前席ふたり + 後席ふたり)のモデルだ。後席には電動リクライニング機能付きシートや大型画面を備え、運転手付きで乗ることを前提とした移動空間として作られた。2006(平成18)年に初代が登場し、トヨタモデリスタインターナショナルが完成車として販売した。

 価格はガソリン車とハイブリッド車ともに1531万円から1578万円と、一般的な乗用車を大きく上回る水準だった。限られた顧客層を想定した「移動する応接室」で、2019年12月に生産を終えた。

 この考え方はその後も続いている。2024年12月下旬、アルファードの一部改良に合わせて、トヨタ車体が仕立てを担当する4人乗り仕様「Spacious Lounge(スペーシャスラウンジ)」が発表され、2025年1月から販売が始まった。3列目をなくし、後席を2席とした運転手付き仕様で、仕事での移動や来客のもてなしを想定している。レクサス初のミニバン「LM」にも同じような座席構成がある。ロイヤルラウンジの考え方は今も受け継がれている。

 こうした少人数仕様がごく高い価格帯の利用者に限られているのは、工場の組み立てと関係がある。標準の車は3列シートを前提に工程が組まれており、5人乗りのような少数仕様を同じ流れに混ぜると作業が複雑になり、効率が落ちる。特別な仕様は専門会社が仕上げる形になっており、一般向けの価格帯で5人乗りを広く出すのは、事業の構造上むずかしい。

5人乗り需要におけるSUV・セダンの代替可能性

アルファードの車内の様子(画像:トヨタ自動車)

アルファードの車内の様子(画像:トヨタ自動車)

 5人での移動を前提にするなら、スポーツタイプ多目的車(SUV)やセダンといった乗用車が国内外で数多く販売されている。日本自動車工業会の調査でも、5人乗りを基本とする車が市場の大きな割合を占める。5人乗りだけを求めるなら、大型車以外にも選択肢は多い。車両価格や維持費を考えれば、あえて5人乗り専用を選ぶ理由は弱い。

 それでも大型車を選ぶ層は、多人数での移動を前提にしている。日本自動車工業会の調査では、平均保有期間は7.2年とされる。一台を長く使う傾向があるなかで、親族や友人を乗せる場面に備えられる安心感は重要になる。

 3列目シートがあることは、中古車としての価値にもつながる。残価設定型ローンで購入する場合、将来の下取り価格が毎月の支払い額に影響するため、多人数乗車の機能を外すことは評価を下げ、負担が増えることにもつながる。

 荷室の広さについても、今のシートの使い方で十分に対応できる。先代のアルファードやヴェルファイアでは、3列目をたたむことで荷室の奥行きが1000mmを超えることが実測で確認されている。現行の40系でも、2列目まで使った状態で約900~1160mmほどの広さがある。ノアやヴォクシーでも約900~1180mmの荷室長が確保されており、レジャー用途でも不足はない。SUVと比べると、高さ方向の空間で大きな余裕がある。

 この広さを保ちながら、必要に応じて人数を増やせる柔軟性が強みになっている。荷室を広げるために3列目を外した車への需要は限られているのだ。

市場を縮小させる少子化と世帯構造の変化

一般世帯数及び一般世帯の1世帯当たり人員の推移(2000年~2020年)(画像:「令和2年国勢調査」総務省統計局)

一般世帯数及び一般世帯の1世帯当たり人員の推移(2000年~2020年)(画像:「令和2年国勢調査」総務省統計局)

 大型車に5人乗りがない理由には、社会の変化も関係している。総務省統計局の2020年の国勢調査では、1世帯あたりの人数は2.21人で、1990(平成2)年以降は一貫して減っている。単身世帯は約2100万世帯で全体の38.1%を占め、その割合は高まっている。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計でも、平均世帯人数は2033年に1.99人となり、初めてふたりを下回る見通しだ。2050年には1.92人まで減るとされる。「夫婦と子ども」の世帯も、2020年の約1400万世帯から2050年には約1100万世帯まで減ると予測されている。

 世帯人数が減る一方で、大人数での移動機会は少なくなっている。だが実際の購入判断は、日々の平均人数ではなく、盆や正月など特定の時期に起きる最大人数に合わせて行われる。家族が分かれて暮らすことが増えた社会では、大型車は離れて暮らす親族を一台に乗せて移動する役割を持つ。とくに高所得層では、高齢の親を連れて出かけるなど三世代での移動を支える価値が大きい。

 世帯規模が小さくなるほど、こうした場面を一台でまかなえる車の存在は限られていく。メーカーが多人数仕様を残すのは、平均的な使い方ではなく、最も人が集まる場面の価値に応えることが、高価格帯の車を成り立たせる条件になっているのだ。

「いざという時」に応える価値

大型ミニバン3列シートの理由。

大型ミニバン3列シートの理由。

 大型車の価値は、多人数で移動できる点に集まっている。5人乗りを新たに用意すれば、この強みを自ら弱めることになり、SUVやセダンとの違いもあいまいになる。

 メーカーにとっては、需要が限られる5人乗りを増やすよりも、7人乗りや8人乗りの形を保ち、「いざという時に多く乗れる」性能を確保する方が、商品としての力を保つうえで合理的である。

 日常の使い方が買い物や用事で4割強を占め、2033年に平均世帯人数がふたりを下回る社会になっても、多人数仕様を続ける理由ははっきりしている。利用者が車に求めているのは、将来のはっきりしない移動需要にも対応できる力だからだ。3列目シートを残すことは、座席数を確保する意味にとどまらず、暮らしの幅を保つ備えとして働いている。

 ふだんは少人数で使っていても、多人数で乗る場面を残しておきたいと考える人が多い。この一見矛盾したような使い方が、大型車を日本独自の高付加価値商品として成り立たせている。

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