フェラーリ初のBEV 新型「ルーチェ」に賛否両論 “初代iMac”を手がけたクリエイティブ集団がデザインした“らしくない”スタイリングに隠された“ヒミツ”とは

2026年5月26日、フェラーリはブランド初となるフルEV「Ferrari Luce(フェラーリ・ルーチェ)」を発表しました。フェラーリらしくないこのスタイリングは、社内のデザイン部門ではなく、元アップルの最高デザイン責任者が作ったクリエイティブ集団「LoveFrom」が手がけています。そこには多くの秘密が隠されていました。

アップル・デザインに通じる個性的でシンプルな造形

 フェラーリ初のEV、「ルーチェ」が発表されました。

 現在、デザインの賛否がネット上を賑わせていますが、ひとつ、とても大切なことがあります。

 新型ルーチェをデザインしたのは、社内のデザイン部門であるフェラーリ・チェントロ・スティーレではなく、ジョニー・アイブとマーク・ニューソン率いるクリエイティブ集団である“LoveFrom”だったということです。

 アイブはかつてアップルの最高デザイン責任者として初代iMacや初代iPhoneを手がけた人物。ニューソンもその同僚として、数々のアップル製品をデザインしてきました。

 つまり、ふたりは現在のアップル・デザインを完成させた人物といっても過言ではないのです。

 工業デザイン界において、彼らの才能をうたがう声はまったくといっていいくらい聞かれません。なぜでしょうか?

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」

 アイブとニューソンはこれまでにない美しいデザインを作り上げてきただけでなく、優れた機能性も同時に両立させてきたからです。これはアップル製品の最大の特長といってもいいものですが、その実現には、アイブとニューソンのふたりが深くかかわっていたといって間違いありません。

 しかも、彼らのデザインはシンプルなのに個性的で、どこか懐かしいというか優しい表情を備えています。そんな、思わず手に取ってみたくなるデザインの特性もまた、アップルを成功に導く原動力になってきたような気がします。

 それではLoveFromがデザインしたルーチェのスタイリングをみて見ましょう。

 外観にデコボコしたところが少なく、余計なデコレーションが施されていない点は、まさにアップル・デザインに通じるポイントです。それでいてどこか優しげで、懐かしい雰囲気を漂わせているところも、これまでアイブとニューソンが作り上げてきたデザインと共通する点です。

 ただし、ルーチェのデザインにはあっと驚くような仕掛けが盛り込まれています。実はルーチェ、クルマ本来の機能を盛り込んだ本体部分の上から、一種のカバーをかけたような構造になっているのです。

 たとえば、従来のフロントグリルに相当する部分は空洞で、クルマ本来の本体部分はその下側の縁から始まって、フロントウィンドウの上端まで一直線につながっています。

 いっぽう、空洞部分の上側の縁から始まっているのが問題のカバーで、これは40cmほど後に向かって進んだところで途切れています。このカバーは、前述した本体部分から切り離された構造になっていて、その上下を流れるエアフローを整流する役割を担っています。つまり、フロントウィングとして機能しているのです。

「本体部分にカバーをかける」という発想

 カバーがかかった状態のルーチェは、とてもシンプルで普通の乗用車に似ているように思えますが、もしもこのカバーを取り外すと、前述のとおりボディ前端からフロントウィンドウの上端までが一直線につながったウェッジシェイプとなっているのです。

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」

 私はプレゼンテーションの会場で、このふたつを分離させた模型を見ましたが、カバーを外した本体部分は、前衛的なウェッジシェイプかつキャブフォワードのスタイリングで、「ランボルギーニが4ドア・クーペを作ったらこんなデザインになるのではないか?」と思わせるほど個性的でした。

 そんなユニークなプロポーションを、敢えてカバーをかけることで「普通の乗用車」っぽい形を作り上げているのです。面白いと思いませんか?

 この「本体部分にカバーをかける」発想はボディのリアエンドにも応用されていて、テールライトが設けられた本体部分をカバーが四方から包み込んでいるような造形とされています。

 実は、ここでもカバーは空力的な役割を担っていて、本体部分とのすき間に設けられたバッテリー冷却用ラジエターから冷却気が流れ出る構造となっているのです。

 インテリア・デザインにもLoveFromらしさは息づいています。

 なによりも、四角いのに角を丸めたディスプレイの形状がアップルっぽいですよね。全体的なデザインも、シンプルなのにユニークで、心を奪われます。この辺はiPadやiPhoneで用いられてきた手法そのものといって間違いありません。

 いっぽうでステアリング上やセンターディスプレイ上にはロータリースイッチやトグルスイッチといった物理スイッチを敢えて残し、運転中も視線を落とすことなく操作できるブラインドタッチを可能にしています。

 さらには、スピードメーターや時計はディスプレイ上に表示された“CG”ではなく、実際の針を備えたアナログメーターとされています。こうした、デザイン性と機能性の両立もまたLoveFromらしさといって構わないような気がします。

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」の後席

世界初公開されたフェラーリ新型「ルーチェ(LUCE)」の後席

 ルーチェのデザインが好きか嫌いか、フェラーリらしいからしくないかは、人それぞれでしょう。

 それでも、シンプルかつユニークなスタイリングでありながら、クォリティ感が高く、優れた機能性と新規性を両立した自動車デザインはこれまでなかったといって間違いありません。その意味において、ルーチェは工業デザイン界に金字塔を打ち立てた歴史的作品といっていいように思います。

 いかがでしょうか。この一文を読んで、ルーチェの見方が少しでも変わっていただけたとしたら、これに優る喜びはありません。

元記事を読む