なぜデンソーと東芝はロームとの統合を目指すのか?浮かび上がった国産パワー半導体の「勝ち筋」

自動車部品大手のデンソー<6902>が、ローム<6963>をTOB(株式公開買い付け)で買収する計画が明らかになった。デンソーの狙いはパワー半導体だ。さらに東芝がロームと事業統合の交渉に入ったと報道された。この分野は日本の半導体産業の中で数少ない「まだ世界と戦える領域」で、政府も大きな期待をかけている。国際競争力強化を狙う「日の丸パワー半導体」の業界再編が加速しそうだ。

世界をリードしたパワー半導体、EVシフトで揺らぐ地位

日本企業は1980年代から2000年代にかけてIGBTやパワーモジュールで世界をリードしてきたものの、電気自動車(EV)シフトの追い風に乗る欧州勢や中国勢の台頭で、競争構造は大きく変化した。今回のTOBは日本のパワー半導体の「勝ち筋」を探る試みだ。

トヨタ自動車系列のデンソーがTOBを提案した理由は、パワー半導体市場の主戦場がEVに移っていること。EVではモーターを駆動するインバーターの効率が航続距離を左右する。

そのインバーターの性能を決めるのがパワー半導体であり、EV1台に使われるパワー半導体はエンジン車の数倍と言われる。つまりEVの普及は、この部品の需要を爆発的に拡大させる要因になっている。

EV市場を主導しているのは欧州と中国だ。欧州では独Infineon Technologiesや仏伊合弁のSTMicroelectronicsといった半導体メーカーが自動車メーカーと密接な関係を築き、車載パワー半導体市場で存在感を高めている。一方、中国ではEV世界最大手のBYDが半導体会社を傘下に持つなど、垂直統合型の産業構造が形成されている。

分散する「日の丸パワー半導体」

これに対して日本のパワー半導体業界は、プレーヤーが分散している点が弱点とされてきた。重電系の三菱電機や富士電機は鉄道や産業機器など高信頼用途で強い。ロームは次世代のSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体で先行投資を行い、EV市場を狙ってきた。

つまり日本企業はそれぞれ強みを持ちながらも、産業全体としての戦略が分散していたのである。デンソーによるロームのTOBは、この分散した産業構造を変えるきっかけになりうる。デンソーはトヨタグループの中核サプライヤーであり、車載半導体やパワーモジュールを手がける自動車部品メーカーだ。

TOBが成立してロームがデンソーの傘下に入れば、自動車メーカーの需要を軸にしたパワー半導体の「垂直統合」が実現する。構造としては欧州や中国が先行している「自動車メーカー ― 部品メーカー ― 半導体メーカー」というEV時代にふさわしいサプライチェーンに近づく。

統合開発で日本の強みを発揮せよ

この構造変化の意味は大きい。パワー半導体は単なる電子部品ではなく、システム設計と密接に結びつく技術だからだ。EVのインバーターやモーター制御では、半導体チップだけでなくモジュール設計や冷却技術、制御ソフトまで含めた統合開発が必要になる。

自動車メーカーと半導体メーカーが深く連携することで車両性能を最大化する設計が実現し、パワー半導体の競争力強化にもつながるのだ。

もっとも、日本企業が世界市場でトップを奪い返すハードルは高い。EVで先行する欧州・中国勢は既に大規模投資を進めており、急成長するEV市場を背景に急速に生産能力を拡大している。

日本勢は三菱自動車や日産自動車が量産EVで先行したが、その後の普及で出遅れたため、車用パワー半導体では企業規模でも投資額でも不利な立場にある。

国産パワー半導体ランキング(M&A Onlineによる推計)

順位企業名パワー半導体関連売上高(推計)パワー半導体事業の特徴
1位三菱電機約3000億円パワー半導体で国内首位。次世代パワー半導体のSiC(炭化ケイ素・シリコンカーバイド)への大規模投資を継続し、世界シェアも上位。
2位富士電機約2400億円電動車向けIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)に強み。
3位デンソー約2000億円トヨタ系の自動車部品大手で、車載向け電子部品が主力。半導体全体で約5200億円のうち、パワーカードなどの内製分を推計。
4位ローム約1600億円SiCパワーデバイスの先駆者。車載・産業機器向けが主軸。
5位東芝約1500億円低耐圧MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)で高シェア。鉄道・産業向けSiCも展開。

パワー半導体の「高信頼」を極めるべき

現実的に日本が目指すべきは「市場全体でのトップ」ではなく、「高付加価値領域での不可欠な存在」になることだろう。実際、日本企業は高信頼パワーモジュールや産業用途、電力変換技術では依然として強い。

鉄道や工場設備、再生可能エネルギーの電力変換などは、日本企業の技術力が評価される分野だ。さらにSiCなど次世代材料でも、日本企業は材料、装置、デバイスの各分野で高い競争力を持つ。

デンソーによるロームのTOBは、「EV時代の電力変換技術を押さえる」という戦略の象徴と言える。自動車メーカーの需要を軸にパワー半導体開発を集中させれば、日本企業がEVの重要部品で主導権を握る可能性がありそうだ。

政府は現時点で特定企業の統合を主導しているわけではないが、補助金やサプライチェーン政策、半導体国家戦略を通じて、業界再編を後押しする環境を整えている。

かつて日本は、モーター制御や電力変換の技術で世界をリードしてきた。EV時代に求められるのもまさにその技術である。デンソーまたは東芝とロームの統合が実現すれば、日本のパワー半導体は「分散したプレーヤー」から「自動車主導のエコシステム」へと変わるかもしれない。

それはM&Aという手段で、日本の半導体産業が再び存在感を取り戻すための「勝ち筋」と言える。

文:糸永正行編集委員

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