がんになると尿に変化。日本の研究チーム「トイレでがん検診」の扉を開く

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image: generated at whisk

尿でがんがわかる日が、また少し近づいた。そう感じさせる研究成果を日本の研究チームが発表しました。

東京科学大学・東京大学・名古屋大学・東北大学・群馬大学・北海道大学・国立長寿医療研究センターの共同研究グループが、がん細胞由来の微小な粒子が尿へと排出されることを世界で初めて直接実証し、その経路を解明したと報告。

成果は国際学術誌『Science Advances』に掲載されました。

ウイルスより小さな「粒」から情報をゲットせよ

体の細胞はみな、「細胞外小胞(さいぼうがいしょうほう)」と呼ばれる小さな袋のようなものを常に放出しています。直径30〜200ナノメートルという、ウイルスと同程度かそれ以下のサイズです。この袋には核酸(RNA)やタンパク質など、細胞の「情報」が詰まっています。

そして、がん細胞が放出する細胞外小胞には、がんの状態や性質が反映されていると考えられ、がん検出の手がかりになるかもしれない、として注目されてきたといいます。

尿や血液などの体液には多くの細胞外小胞が含まれていて、これらを解析する「リキッドバイオプシー」という手法は、組織を採取する「バイオプシー」と比べても負担が少ないため期待が寄せられています。

ただ、ひとつ大きな疑問がありました。脳や肺、膵臓など、泌尿器とは離れた場所にあるがんの細胞外小胞が、なぜ尿の中に見つかるのか。その経路が謎のままだったのです。

腎臓の高性能フィルターはゲートでもあった

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Image: 名古屋大学 研究成果発信サイト

今回の研究では、特殊なタグ(目印)を付けた細胞外小胞を放出するように遺伝子操作したがん細胞をマウスの脳に移植し、その後の動きを追跡しました。

その結果、脳腫瘍から分泌された細胞外小胞が血液に入り、腎臓を経て、尿に出ていくことが確認されました。

注目すべきは、腎臓の「糸球体」という部位の振る舞いです。糸球体は血液をろ過するフィルターのようなもので、通常は大きな粒子を通しません。ところが細胞外小胞は通過限界より大きいにもかかわらず、「トランスサイトーシス」と呼ばれるプロセス(細胞がものを取り込んで、反対側から出す仕組み)を使って、これを能動的に通り抜けていることも明らかになりました。

糸球体はただの「ふるい」ではなく、細胞外小胞を積極的に処理する「ゲート」として機能していたわけです。

さらに、脳腫瘍モデルだけでなく、肺がん・膵がんのモデルでも同様に細胞外小胞が尿に排出されることが別の実験で確認されました。興味深いことに、尿中で検出されるシグナルが、血液中よりも多い場合があることも示されています。

これらの発見が意味するのは、尿検査で特定のがんを早期発見できる可能性が高まった、ということでしょう。

メスで組織を切り取るような従来の生検と違い、採尿カップひとつで済む未来がくるかもしれない。そんな検査が実現すれば、定期検診のハードルはぐっと下がります。

ただし、「尿でがんが診断できるようになった」というわけではまだありません。今回の成果はあくまで「がん由来の細胞外小胞が尿に出てくる仕組みを解明した」というもの。実際に臨床で使えるほど精度の高い検査法を確立するには、どの分子マーカーを見ればよいか、どう検出するか、偽陽性・偽陰性をどう減らすかといった課題がまだ山積みです。

私たちには、かつて「一滴の血でなんでもわかる」と謳ったセラノスの虚偽が、医療不信を引き起こした教訓もあります。この研究は確かに前進ですが、「基礎研究の重要な一歩」として受け取るのが正確なところです。

それでも、こういった地道な「仕組みの解明」の積み重ねが、将来の検査技術を支える土台になります。採尿カップでがんのリスクがわかる未来。その入口が、少し開いたのかもしれません。

Source: 大学ジャーナルオンライン, Science Advances

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