半導体がまた入荷待ちかも…理由はイラン戦争とヘリウム不足

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image: generated at whisk

吸って声変えたり風船飛ばしたりするだけじゃないんですね。

カタールの国営エネルギー企業「QatarEnergy」は、中東での軍事的緊張が激化した3月2日(月)に、ラスラファン工業都市でのLNG(液化天然ガス)や関連製品の生産を全面停止し、2日後の4日には「フォース・マジュール宣言(不可抗力宣言)」をしました。

不可抗力宣言は、自然災害や戦争、ストライキといった非常事態に直面した企業が、販売先への供給義務や損害賠償責任などを負わなくて済むようにするために出されるものです。

この宣言が注目されたのは、カタールは世界で使われるヘリウムの約3分の1を担っている産地でもあるからです。

ヘリウムって、チップ工場で何をしているの?

「ヘリウムって風船のガスじゃないの?」と思う方も多いはずです。少し説明しましょう。

半導体チップを作る工程は、シリコンの薄い板(ウエハー)に、髪の毛の1万分の1ほどの細さで回路を焼き付ける作業です。砂粒の上に精密な地図を描くようなもの。わずかな熱のムラや不純物が混じっただけで製品が台無しになるため、製造ラインは極限まで清潔で、安定した環境でなければなりません。

そこで活躍するのがヘリウム。化学的にほとんど何とも反応しない「おとなしい」性質を持ち、ウエハーを冷却したり、装置内を清浄に保つために使われます。しかも、現実的な代替手段がほぼ存在しない素材です。

風船を膨らませるだけじゃない、静かに半導体産業を支えるガスなのです。

「3カ月は影響が出る」と専門家

問題は、この停止がいつ終わるかが見えないこと。前述のQatarEnergyのサード・シェリダ・アル・カービCEOはフィナンシャル・タイムズのインタビューで「紛争が完全に終結するまでLNG生産の再開はできない」と語り、施設へのダメージも調査中であることを明らかにしました。

ヘリウム業界のコンサルタントも厳しい見通しを示しています。ある専門家は「ヘリウムの供給は最低3カ月は混乱を免れないだろう。完全に正常化するにはさらに2カ月は加算が必要」と述べました。

さらに見落とせないのが、輸送コンテナの問題です。世界のヘリウム供給の3分の1を占めるコンテナがカタールを経由して世界中に届けられており、停止が2週間を超えれば企業はサプライチェーンの再編を余儀なくされるといいます。

ホルムズ海峡が閉鎖されている現状では、陸路での代替ルートも課題です。たとえ可能になったとしても、非常に不安定な供給網には変わりません。

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TSMCも「今は大丈夫」…だけど

現時点では、大手各社は落ち着いた姿勢を見せています。

TSMCは3月16日、現時点では「事業に重大な影響はない」と見込んでいると発表。台湾経済部も、現地企業はアメリカやオーストラリアを含む複数の供給源からヘリウムを調達する能力があり、特定地域の状況に左右されないと強調しています。

もっとも、ブルームバーグ・エコノミクスのアナリストは「ヘリウム不足が深刻化すれば、半導体メーカーは利益率の低い部品よりもAIチップの生産を優先せざるを得なくなる可能性がある」と指摘。つまり、私たちが使う一般的なデバイス向けのチップは後回しにされるかもしれない、ということです。

韓国も危機感を強めています。韓国はヘリウム供給の約64%をカタールに依存しており、半導体用の高純度ヘリウムに限ればその比率は80%近くに達すると推定されています。DRAMやHBMを世界に供給するSamsungやSK hynixを擁する国として、他人事ではない状況です。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻でもヘリウムやネオンの不足が発生し、半導体業界は調達先の多様化を迫られました。今回の混乱は、その規模をはるかに上回る可能性があるかもしれません。

今回の中東情勢でガソリン代や光熱費が毎日のようにニュースで報じられていますが、実はほかにもこんな問題は起きていて。手元のスマートフォンやAIサービスにも影響が出てくるのであれば、ちゃんと生活に直結したことなんですよね。

テクノロジーのサプライチェーンは、思っているよりもずっと広く、遠い場所とつながっています。

Source: HDblog.it , gasworld , Bloomberg , EE Times Japan

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