中村雅俊「20代で出合った役を、70代になっても演じ続けるなんて」50年目の映画『俺旅』で初監督を務めることになったワケ
01/15 12:30
婦人公論.jp

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【写真】若い頃は飲み歩いてばかりだったけれど、今は奥さんと…
等身大の若者たちの生き方に反響
50年前、俺が連続テレビドラマ『俺たちの旅』で演じたのは、長髪にベルボトムジーンズ、下駄履きの大学生・カースケこと津村浩介。
そして、田中健さん演じる同級生のオメダ(中谷隆夫)、秋野太作さん演じる先輩のグズ六(熊沢伸六)とともに自分探しをする姿が、同世代の若者に共感されて大きな反響をいただきました。
ドラマの舞台となった吉祥寺は、人気の町に。井の頭公園などでロケをしたものです。
放映終了後も、10年目、20年目、30年目と3回、登場人物のその後の人生の節目ごとにスペシャルドラマを制作してきて。
「俺旅」ファンのみなさんも一緒に年を重ねながら観てくださっていた。2012年に斎藤光正監督が亡くなられたので、今後、続編はないだろう、と思っていたんです。
ところが数年前、脚本家の鎌田敏夫さんに呼ばれまして。「50年目もやりたいね」という話になったとき、鎌田さんが突然、「雅俊、お前が監督をやれ」と。「はい」と即答していました。
たぶんやってみたかったんだと思います。『俺たちの旅』は特別な作品で、俺だけではなく、みんなが大好き。だから「50年目」を作れるのはうれしくて、どんな形であれ参加したかった。
20代で出合った役を、70代になっても演じ続けるなんて思いもよりませんでしたね。ただ、50年も経つと共演者で亡くなっている方もいらして。鎌田さんは本作りに苦労したはずです。
当時、『俺たちの旅』の何が支持されたのかというと、等身大の若者像を描ききっていたところでしょうね。
「これが青春だ!」というような、元気で前向きでキラキラしたものではありません。光が差せば当然できる影の部分をすくい上げることで、生きていることの切なさみたいなものを表現しようとしていた。
物語の作り方も普通とはちょっと違っていて、出演者が実体験のエピソードを披露し合って。お金がなくてバイトに明け暮れるカースケは、そのまんま学生時代の自分でした。
大きな事件や派手な展開はなくても、学業や恋愛、就職に悩み、迷い、ぶつかり合って答えを見つけようとする。3人それぞれダメなところを背負っていて、決して正しいことばかりするわけではないけれど一途でまっすぐ。
カースケは、世の中の正義や常識に対してアンチの姿勢で、いつもカッカと怒っていて。みんなが一生懸命だったからこそ、視聴者は「こいつらバカやってるよ」なんて言いながら熱心に観てくださったのだと思います。
70代、80代のリアリティを込めた
2026年1月9日に公開される、俺の初監督映画『五十年目の俺たちの旅』では、自分らしさを求めて心のままに生きてきたカースケたちの70代、80代の姿を描きました。俺自身が74歳だから、彼らならどんなふうに生きるのかなと照らし合わせたんです。
「自分の人生の最後に本当にやりたいことは何なのか」。それを見つめることができたように思います。
人生の分かれ道を選択して、その結果生まれる悲劇もある。こんなことを望んでいたわけじゃない。でも選んだのは自分――。そういったところに、生きていく切なさがある。連ドラから最新映画まで、シリーズ全体に通底するのは、やはりこの「切なさ」です。
撮影現場で、久しぶりに80代の秋野さん、70代の健ちゃんと顔を合わせたとたんに、一気にあの時間に戻れました。何も変わらないと思う一方、肉体的にはもう昔みたいにハリのある声が出せないとか、いろいろあって。
回想シーンは、ちょっと恥ずかしいんですよ。20代のカースケは早口にまくしたてていたけど、ホントに年取ると穏やかになりますね(笑)。キャストがみんないい感じで年齢を重ねていて、50年の歳月のリアリティが映画の見どころの一つです。
初監督の現場は本当に大変でした。何十年も監督のそばで見てきたはずなんだけど、こんなに大変な仕事をやっていたのかと痛感。一つひとつのカットに「OK」を出すことに伴う責任の重さ。そして「もう1回」を要求する勇気。
俺は俳優の気持ちがわかるだけに、ダメ出しするのがつらいこともありました。一方、最後の編集作業は楽しくて、音声のズレや映像の修正が一瞬でできちゃう先進技術に、「すごい!」と感動しながら仕上げました。
監督、出演に加え、主題歌を歌い、挿入歌も手掛けたんです。この「俺たちの旅」シリーズからはいろいろな歌が生まれています。9月に「俺たちの旅 スペシャルコンサート」を行いましたが、うれしいことに、26年1月に追加公演が決定。さらに、「俺旅」のアイドル、真弓役の岡田奈々ちゃんもライブに登場しています。
お客さんは俺らの同窓生みたいなもの。青春時代から、それぞれの道を歩んできた人生があり、それが50年目に交差するというのかな。『俺たちの旅』はまだまだ終わらない、というわけです。