高石あかり「ヘブンさんの<その時>は『ばけばけ』らしいさみしさがあった。奇跡のような作品に参加できた」

『ばけばけ』場面写真

『ばけばけ』/(c)NHK
泣き、笑い、セリフのない場面でも豊かな感情表現で物語を前に進めてきた――。松江の没落士族の娘・小泉セツと、その夫で怪奇文学作品集『怪談』で知られる小泉八雲をモデルにした連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合/毎週月曜~土曜午前8時ほか)で、怪談が好きなヒロインの雨清水トキを演じているのが俳優の高石あかり(高ははしごだか)さんだ。八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルにしたレフカダ・ヘブン役をトミー・バストウが演じる。明治初期の松江から始まり、日常のうらめしさと素晴らしさを紡いできた物語は、まもなく幕を閉じる。クライマックスを前に、高石さんに思いを聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

* * * * * * *

【写真】錦織と話をするトキ

奇跡のような朝ドラだった

2月に『ばけばけ』の撮影を終えました。ドラマ制作は、人と人が関わるお仕事だし、うまく交わらない部分もあるんじゃないかと考えていました。でも、チーム全員がお互いを尊敬しているからこそずっと楽しく撮影に臨めたと思っています。

題材や物語、キャスト、スタッフの方々…。そのすべてが私にとって完璧だったと言える作品です。夢だった朝ドラヒロインを『ばけばけ』で演じることができたのは奇跡のようでした。

クランクアップの日、最後のシーンを撮り終わった後に、スタッフさんから「少し待っていてください」と言われたんです。スタッフの皆さんが扉の向こうに待ち構えているのかなと予想していました。

でも、扉が開いたら、これまでに出演してくださったたくさんのキャストの方がいらっしゃった。わざわざ大阪まで来てくださったんです。みなさんが、私とトミーさんに拍手を送ってくださって。

「やり遂げた」というよりも、信じられないものを見ているような「こんなに幸せなことがあっていいのかな」と嬉しくてふわふわしたような感覚になりました。スタッフやキャストの方々からいただいた、メッセージ入りのチェキは一生の宝物です。

「高石あかりらしさ」とは

ヒロイン発表の時に、脚本のふじきみつ彦さんからは「高石さんそのままで演じて下さい」と言われました。「私って何だろう?」と思いながら、現場に立ってきました。最初は「トキは自分に近いな」「似ているな」と感じていたのです。

たとえば、トキの実父の雨清水傳(堤真一)から、「私の子どもではないぞ」と言われたときに、私だったら「知っちょります」と言うな、と思ったら台本にそのままそのセリフが書いてありました。自然とトキが自分の中に湧いてくるようになって、「自分に似ている」と思うこともなくなったんです。

『ばけばけ』場面写真

『ばけばけ』/(c)NHK

トキを演じていると、過去の経験がよみがえってくることもありました。役と自分が重なるようなことは今までなかったのですが、よりリアルで素直な何かがお芝居で表現できていた気がします。

ただ、役を引きずることはありませんでした。カットがかかったら、もう自分に戻っている。まわりも配慮してくださって、スタジオには私が1人でいられる場所もあったので、役と自分にうまく線を引くことができたと思っています。

トミーの印象

<小泉八雲をモデルにしたレフカダ・ヘブンは第5週から登場した。わがままで感情的だけれど、チャーミングなヘブンを、イギリス出身の俳優、トミー・バストウが魅力たっぷりに演じた>

ヘブン役のトミーさんとは、初めて会った時から「1年間一緒にやっていける」と思えるような気が合う感覚がありました。撮影期間を通して信頼が深まったのは、お芝居を通じて相手の心を知るからかもしれません。

素顔のトミーさんは、周りをよく見ていて優しい方。トミーさんの優しさやチャーミングさがヘブンという役にあふれていました。かわいらしくて、怒ると怖くて、人を惹きつけるヘブンは、トミーさんだからこそ説得力があったと思っています。

人として学ぶこともありました。トミーさんは、凝り固まった考えがない人。私は、「こうでなくちゃ」という自分の価値観を柔らかくしていきたいと考えているので、トミーさんには、憧れる部分があるんです。

<トキとヘブンを公私に渡って支えた、錦織友一を演じたのが吉沢亮だ。第23週、ヘブンの日本戸籍取得のため松江を訪れたトキたち。再会した錦織は病気のためやせ細っていた。吉沢さんは撮影がなかった1ヵ月の間に約13キロの減量を果たした>

吉沢さんが減量をするとは、聞いていました。でも、あまりにも以前と見た目が違って、驚きました。自分の体のカタチを変えて、役に合わせるというのはすごく難しいこと。1ヵ月で13キロという数字だけではない、大変さがあったと思います。

でも、現場では吉沢さんはそれを全く感じさせなくて「大丈夫ですよ」とおっしゃっていました。絶対大丈夫じゃないはず。役に対する熱量と強さを直接感じるだけでも、役者として得られるものは大きかったです。

貧しさの中のさみしさと楽しさ

<武士の世が終わり、明治の世が始まったころから物語はスタート。時代の変化についていけず、立ち尽くすしかない司之介は働きに出ることもできなかった。司之介の借金で転落して貧乏長屋暮らしになったトキは、同じ長屋に住むサワと親友だった。しかし、玉の輿に乗ったような形で結婚したトキにサワが微妙な気持ちを抱いたことも…。

ヘブンの妻になったトキは、憧れの目で見られていたが、松野家の借金をヘブンが返済したことが知られると、街の人から蔑まれてしまう。人の心の暗い部分も逃げずに描いた作品だった>

『ばけばけ』場面写真

『ばけばけ』/(c)NHK

『ばけばけ』は、貧しい環境にある人の心の中のさみしさや満たされなさが描かれていました。その満たされなさはどの時代にもあるもの。貧しくて満たされない中でも、不器用にただ生きているキャラクターたちが本当に魅力的でした。

トキは、借金を返すために女中になりました。ヘブンと結婚して、裕福になったけれども、ラシャメンとして蔑まれたこともあります。時が経ち、環境が変わっても、さみしさや楽しさをみんなが持ち続けている。見ている方に共感してもらえる素敵な部分じゃないかと思っています。

怪談を語るシーンは楽しみ

<トキがヘブンに怪談を語って聞かせることで、2人の距離は近づき結婚に至る。24週では、再び『怪談』がフォーカスされた。ベストセラーを書こうと模索するヘブンに、トキは「学のない私でも読めるものを書いてほしい」と提案。トキが怪談を収集し、ヘブンに語って聞かせたのだ。そして、のちに世界的ベストセラーになる『怪談』が誕生した>

1回目に怪談を語るシーンの撮影では、ものすごく緊張して、でもすごく楽しかった。だから、もう1回怪談を語る場面を撮影できることが嬉しかったし、前回より深くなったものを見せたいと思っていました。

トキは本当に怪談が好き。「怪談を話していると楽しそう」「好きなものに触れているとこんなにキラキラする」と感じてもらえたらいちばんうれしいです。トキが『耳なし芳一』を語るシーンでは、ヘブンさんが本当に般若心経を耳以外の顔や体に書いていました。その姿を生で見ることができたのはすごく貴重な経験でした。

『ばけばけ』場面写真

『ばけばけ』/(c)NHK

<第122回ではついにヘブンが死去する。自分が亡くなった後の家族のことまで心配していたヘブン。残されたトキと家族は…>

最終週の脚本を読んで、泣いてしまいました。いつか来るであろう、その瞬間がどう描かれるのかなと思っていたら、想像とは違ってすごく『ばけばけ』らしいエピソードでした。決して壮大なストーリーではない、日常を描いてきたこの作品だからこそ、残せるさみしさがありました。

トキのモデルの小泉セツさんは『思ひ出の記』というエッセーを残しています。そこに書いてあったセツさんのセリフに近いものを感じて、セツさんの存在を感じながら、最終週の台本に向き合いました。

驚かせる俳優に

<大阪を拠点に1年弱に渡り、ヒロインを演じた。ふじきみつ彦さんならではの笑える会話劇ではコメディセンスを発揮。セリフがなくても、表情と演技でトキの複雑な心情を表現。切なさと明るさと諦めを同居させ、トキの人生を演じ切った>

22週のトキの出産シーンの撮影が、私の誕生日と重なりました。朝ドラの出産シーンは「いつか演じたい」と思っていた場面。やりたかったシーンを演じることができて、いちばんのプレゼントだと思えました。

毎日撮影がある朝ドラを経験したことで、セリフ覚えが相当早くなりました。「覚えにくい」と言っている時間もない。しっかり一言一句覚えるのが前日になってしまうこともあって、これが朝ドラの洗礼かなと思いました。以前と比べると、セリフ覚えは、100倍か200倍くらい早くなったかな。(笑)

自炊もするようになりました。朝ドラ中は「1年間健康でいることがいちばんの任務」なので、食事をちゃんとしようと思ったんです。撮影前は、料理に対するハードルがありましたが、今では、習慣になって自炊を続けています。

高石あかりさん

高石あかりさん『ばけばけ』/(c)NHK

撮影は終わりましたが、今もまだトキの出雲言葉が残っています。「なして?」とかはよく言ってしまう。トキを演じたことで、役の感情が自分の中にわいてくる瞬間を感じることができたし、瞬発力もついたかな。今後のお芝居に絶対につなげていきます。

これからは、みなさんを驚かせるような俳優になりたいです。トキとは全く違うイメージの作品に出た時に「トキだったの?」と驚いてもらったり、面白がってもらえたりしたら、いいな。

元記事を読む