黒島結菜「保護犬との出会いをきっかけに社会問題に関心。子どもだけでなく大人も助けることが必要だと感じて」
05/02 11:30
婦人公論.jp

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憧れの東京
<黒島さんは沖縄県出身。2011年に芸能界デビュー。2015年にカルピスのCMに抜擢。以降、話題の映画やドラマに多数出演してきた>
東京は、子どもの頃から憧れの街。すごくキラキラした場所だと思っていました。沖縄の実家は空港が近く、飛行機が飛んでいるのがよく見えた。でも、飛行機に乗るのは、石垣島の祖父母の家に行く時だけ。「いつか飛行機に乗って東京に行きたい。高校を卒業したら東京に行こう」と決めていました。
東京は、映画もすぐ見に行けるし、何でもある。電車の本数も多いから、どこへでもすぐ行ける。東京に出てきて3年くらいはすごく楽しくて、ホームシックになることはありませんでした。
でも、東京を満喫しすぎたのか、上京して5年ぐらいたつと、「沖縄に帰りたい」という気持ちが生まれたんです。今は、よく帰るようになりました。沖縄から東京に戻るとエネルギーの強さを感じますが、今は沖縄でゆっくりしたい気持ちのほうが強いです。
「イヤミス」だけれど
<『未来』で黒島さんが演じるのは、親に捨てられ、祖母に育てられた篠宮真唯子。夢を叶えて教師になったものの、過去のある出来事が学校で問題になってしまう。一方、真唯子の教え子・章子(山崎七海、崎はたつさき)のもとに1通の手紙が届く。差出人は「20年後の私」。父と死別し、病気で心を閉ざした母・文乃(北川景子)との孤独な日々を送っていた章子は、その手紙に励まされる。しかし、章子にさらなる困難が襲いかかり――。章子の物語と真唯子の物語が交錯し、絶望と希望が描き出される。原作者の湊かなえさんは、読後、後味の悪さを感じる「イヤミスの女王」と呼ばれている>
湊さんの作品は、「イヤミス」と言われるけれど、物語のラストにかけて心に訴えかけてきます。原作は、貧困や虐待といった子どもに対するつらい描写が多く、「こんな気持ちになることがあるんだ」と思うくらい落ち込みました。
でも、1つ1つのシーンや描写に現代社会へのメッセージ性があって、生きることの過酷さを描きつつ、同時に何か希望が見えてくる。今、社会に伝える必要がある作品だとも感じたんです。
映画では、原作で別のキャラクターが担っていた役割を真唯子が引き受ける形。映画の筋となる役なので、大事に集中力を切らさないように演じて。「私には何ができるんだろう」と考える日々でした。
瀬々監督からは「だから気が強い」
<『未来』の監督は、『ラーゲリより愛を込めて』などで知られる瀬々敬久さん。黒島さんは、映画『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015年)以来、2回目の瀬々監督作品となる>
『ストレイヤーズ・クロニクル』の頃、私は高校生。「お芝居って何だろう」と悩んでいた時期でした。この作品で初めて、「お芝居で気持ちが通じ合うこと」を経験したんです。『未来』でも真唯子役を通して、章子や共演した子どもたちと心が通じ合えました。改めて瀬々監督の作品に参加できたことが、すごくうれしいです。
瀬々監督は少年のようにチャーミングで面白い方。真唯子の大学時代を撮影していたある日、瀬々監督から「黒島さんは長女か末っ子か」と突然尋ねられて。「長女です」と答えたら、「気の強さはそこから来ているのか」と言って、瀬々監督はそのままどこかに行ってしまいました。

実際、私は気が強いほうだと思います(笑)。真唯子は、大学生から社会人にかけて時間とともに大きく変化する役なので、「気が強すぎてもダメかな?」「大人になるにつれもっとおおらかに、優しく包み込むような変化をつけたらいいのかな」と考えさせられました。
初の教師役
教師役は初めてです。真唯子は、すごく難しい役。瀬々監督とは、真唯子の優しさや思いを子どもたちにどこまで伝えるのか相談しました。真唯子は、教え子である章子とその保護者である文乃を気にかけていますが、踏み込みすぎず、かといって離れすぎずの距離感を意識しました。
章子の小学生から中学生までが描かれますが、ちょうど大人に近づく繊細な時期。小学校教師の友人も「接し方がすごく難しい」と言っていて。章子をはじめとした生徒役の子とどう向き合えばいいのか不安でした。でも、撮影が始まってからは、子どもとして見るのではなく、1人の人間として向き合うべきだと思うようになったんです。
子どもにとって、教師は大きな存在。私は、学生時代、先生に恵まれました。今でも連絡を取っている方もいます。中学生のころに芸能の仕事を始め、あまり学校にいけなかった時期に、気にかけてくれた先生もいましたね。若い先生だったので友達のような感覚で、下の名前で呼んでいましたし、先生も「結菜」と呼び捨て。今はわかりませんが、沖縄の学校は先生と生徒の距離が近くて、いい環境でした。
高校生になると、仕事で東京にいることが多くなり、沖縄に戻るのは学校の出席日数を稼ぐため。学校では睡眠不足で寝てしまうこともあったんです。先生は「授業を聞いて」と厳しく指導してくれる時もあれば、そっとしておいてくれる時もあって。仕事と学業のバランスを理解してくれていました。
大人も救われないと
<章子を気にかける真唯子だが、自身も大学時代に大きなトラブルに巻き込まれていた。その時そばにいてくれたのが、同じアパートに住む学生、原田勇輝(坂東龍汰)だ>
つらい状況に陥った真唯子を、原田君が気にかけてくれる場面があります。真唯子は原田君をちょっと拒否しつつも、自分を思ってくれる存在がいることで救われた部分があるし、その存在が希望につながっている。
章子の母親の文乃も過去に壮絶な経験をしています。真唯子も文乃もそれぞれが問題を抱えながらも、章子という守らなければならない存在がいることで立ち上がる。私自身も出産して家族が増えたことで、より「守るべき存在がいる」ことを意識するようになりました。

ただ、人のことを気にかけるって自分に余裕がないとできない。子どもたちの未来を守ることはもちろん大事ですが、子どもだけでなく大人を助けることも必要だと感じました。
助け合いの精神が根付いた沖縄
私自身は、人に助けを求められるタイプ。親が私たち子どもを育てることに手間や労力を惜しまない人だったので、安心してSOSを出せたのだと思います。
今でも仕事で忙しい時には、東京に助けに来てくれます。沖縄には「ゆいまーる」という言葉があって、助け合いという意味。結菜という名前はゆいまーるが由来。沖縄では助け合って子育てをしているし、地域のコミュニティがある。沖縄のすごくいいところです。
困っている人を助けられる人でありたいと思っていますが、東京はちょっと独特で難しい。ホームや道端に倒れている人を見ても、酔っ払いなのか体調が悪いのかわからないから、声をかけるべきか悩んでしまう時があります。

『未来』の撮影に参加して、気にかけてくれる存在の大切さをこれまでよりも感じた今は、「大丈夫ですか、何か助けがいりますか?」と声かけをしようと思っています。
身近な人に優しく
真唯子の教え子・章子役の山崎さんと、真唯子の母・文乃役の北川さんとは、たくさんの大事なシーンがありました。山崎さんは、目の奥から何かを訴える力が強くて。セリフがなくても、表情から、これまでの壮絶な経験が伝わってきます。
北川さん演じる文乃はつらい過去から心を病み、感情がなくなって人形のように「オフ」になる場面が多かったんです。それでも、最後には文乃から「章子を守るんだ」という強い気持ちが感じられた。お2人のお芝居があったからこそ、真唯子役を全うできたんです。
『未来』の撮影を通じて、助けが届かない子どもたちがいると知ることができたのが、自分にとって大きな変化。8年前に保護犬を飼い始めたことをきっかけに、社会問題に関心がありましたが、もっと視野を広く持ちたいです。

海外にも興味があるし、私だけではなく、子どもにも日本だけじゃない広い視野を持ってほしい。難しいけれど、自分自身が良い選択をすることが、未来につながっていくと思っています。