吉田羊「私の根っこにあるのは《性善説》。だから悪役を演じる時も、そうせざるをえない心理があるのではないかと、心の裏を探って」

(撮影:清水朝子)
〈発売中の『婦人公論』5月号から記事を先出し!〉
シェイクスピア劇『リチャード三世』に主演、初の悪役に挑戦している吉田羊さん。ほめ上手だった両親の思い出から、現在の健康習慣まで、芝居への情熱とともに語る。(構成:篠藤ゆり 撮影:清水朝子)

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【写真】1週間、同じメニューが続いても飽きませんと話す吉田さん

前編よりつづく

悪人の心の内に分け入りたい

両親から十分愛されて育ったおかげか、私の根っこにあるのは、「性善説」です。世の中の人はみんないい人だと思っている。だからいわゆる《悪役》を演じる際も、その人の裏には、そうせざるをえない心理があるのではないか。そこを探りたいし、表現したいと思うんです。

5月10日から全国を回るシェイクスピア劇『リチャード三世』で私が演じるのは、悪の権化とも言われるリチャード三世です。

兄や貴族を野心と策略によって葬り去る。王位を得た後も暴政を行い、結局は破滅に向かう――確かに悪の体現者でしょう。

でも私は、この謀略の王にも何か悲しみや思いがあるのではないか、という視点で考えてしまいます。意外なところで弱音や本音が見え隠れするので、その心の内に分け入りたいな、と。

「彼のそうした醜悪さや非道さと表裏一体にある悲しさみたいなものに光をあてられたらと、戯曲と向き合っています」

シェイクスピア劇の主人公は、だいたいみんな孤独です。リチャード三世はそのなかでもとくに孤独を極めた人物。

せっかく私がやらせていただくなら、そういう彼の内面にフォーカスして、この座組でしかやれない世界を作っていきたいのです。

彼が持っている卑屈さや嫉妬心みたいなものは、もちろん私にもあるし、ご覧になっている観客のみなさまの心の中にも、そのかけらがあるかもしれません。

彼のそうした醜悪さや非道さと表裏一体にある悲しさみたいなものに光をあてられたらと、戯曲と向き合っています。

まぁ、もしかしたら、演出家の森新太郎さんからは、そんなに深読みしなくていいよ、と言われるかもしれませんが。(笑)

観客をも裏切るシェイクスピアの面白さ

森さんとのタッグでシェイクスピアにチャレンジするのは、これで3作目。2021年に全キャスト女性で『ジュリアス・シーザー』、24年に『ハムレット』の原型といわれる戯曲『ハムレットQ1』に取り組みました。

21年の舞台が終わった時点でとても楽しかったので、「3部作でやろうよ」と私からお声がけしたんです。

そのとき、森さんが「『リチャード三世』もやろう。『ジュリアス・シーザー』のブルータスとは対極にある、悪役の羊さんも見てみたい」と言ってくださいました。

最初に『ジュリアス・シーザー』で演じた際は、森さんから「男性を演じようとしないでください」と言われました。あのときは衣装デザインが中性的だったので、あえて男性的な振る舞いをする必要もありませんでした。

そして、『ハムレットQ1』では、見た目も男性役で演じさせていただきましたが、性別を超えて演じることで、人間が持っている欲や業が鮮明に浮かび上がる気もして、面白いなと感じました。

今回は、篠井英介さんが女性役で出演します。昔、篠井さんの女方の芝居を拝見したことがあって、いつか一緒にお芝居をしたいなと思っていたので、それが叶ってとても嬉しい。

他の共演者の方々も、舞台モンスターみたいな演技巧者ばかりなので、相当、濃い舞台になるはずです。

演出の森さんは本当に勉強家で、シーンの解釈とか、このセリフのベクトルはこうだとか、とても細かく話してくださいます。だから彼のシェイクスピアについての《講義》を聞くだけでも、本当に楽しいんです。

そしていつも私たちと同じ土俵に立って、トライアンドエラーを受け入れてくれる。みんなで忌憚なく意見を出し合い、アイデアを持ち寄ることができるので、稽古も楽しくて仕方ありません。

まさにみんなで一緒に作り上げていく感じがあって、カンパニーがいい一体感になるんです。だからもう、永遠に稽古が続いてほしいと思うくらい。(笑)

本番が始まってからも、観客のみなさまのリアクションで発見することもありますし、本番中に「あっ、このセリフ、このベクトルじゃないな」と気づいたりもする。その瞬間が数多くあるのが、シェイクスピア劇の面白さだし、深さだと思います。

シェイクスピアの作品は、観客と《共犯関係》を結んでいくものが多いんですよ。登場人物が、観客に向けて語りかけて進みますから。ただ、ときとして観客すら裏切り、観客に嘘をつく瞬間がある。

リチャード三世は、誰に対しても大芝居を打っていきますが、それが嘘かまことか――。そこも、この作品の面白さだと思います。

正直、シェイクスピア劇に取り組むのは苦しいです。なにせセリフが膨大で、そのセリフと体を連動させなくてはならない。でも、苦しければ苦しいほど、やりがいがあって、手ごたえが大きいのも事実です。

映像の仕事も大好きですが、舞台もやめられないなと、あらためて感じています。

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