映画『レンタル・ファミリー』を見る前に知ってほしい3つのこと。日本人がもっとも「深く入り込める」理由

『レンタル・ファミリー』が実に素晴らしい映画でした!見る前に知ってほしい3つのことと、日本人がもっとも「深く入り込める」理由を記していきましょう。「監督の実体験が反映されている」「現実の仕事を描いている」ことも重要だったのです。(※画像出典:(C) 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.)

2月27日より『レンタル・ファミリー』 が公開中です。大きな特徴は「アメリカ映画でありながら舞台は日本の東京」かつ「レンタルビジネスを描いている」ことでしょう。

ハラハラドキドキもできる、万人向けのエンタメだった!

結論から申し上げれば、本作は面白い! 物語に小難しさはなく、感情移入ができる。クスクス笑えるユーモアも、ハラハラドキドキするサスペンスもある。エンターテインメントでありながら、今の社会に鋭く切り込んだ視点もある。そのように全方位的に完成度が高い、万人におすすめできる傑作だったのです。

なお、レーティングはG(全年齢)指定ですが、わずかに性風俗のシーンがあることにはご注意を。それもあまりどぎついものではないので、多くの人にとっては、それほど抵抗はなく見られるのではないでしょうか。

また、本作の物語はフィクションであり、意図的にせよやや荒唐無稽なファンタジーのように仕立てている部分もあるものの、実は「監督の実体験に基づいている」ことも重要でした。さらなる魅力を、知ってほしい特徴とともに記しましょう。

1:レンタルビジネスへの「戸惑い」どころか「嫌悪感」まで描いている

あらすじは、「世間から忘れられたアメリカ人俳優が、日本のレンタル家族の代理店で、見知らぬ人々の代役の仕事を始める」というもの。監督であるHIKARIのリサーチによると、現在は約300社ものレンタル家族業者が活動しているそう。つまりは、「現実の仕事」をはっきりと描いている作品でもあるのです。

(C) 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

重要なのは、このレンタルビジネスへの「戸惑い」はもちろん、「嫌悪感」までもが示されていること。例えば、冒頭で主人公は「黒いスーツを着てきてくれ」くらいしか聞かされないまま仕事に向かうのですが、そこでは知らない誰かの葬儀が行われているのです。

「弔問客」役として招かれたことは分かっても、さらに遭遇する「まさかの出来事」には「え? どういうこと?」と、この映画を見ている観客も良い意味で困惑するでしょう。ここで主人公と観客の気持ちが一致しているため、コメディーとしてクスッと笑えると同時に、早くも彼に感情移入できるのです。とはいえ、俳優として崖っぷちでもある彼には選択の余地はなく、その後も仕事を引き受けようとはする……のですが、それは客観的には「偽りの家族を演じる」という仕事。もっといえば「依頼者の周りの人たちを騙している」という罪悪感を抱いた彼は、仕事からあわや逃げ出しそうになってしまうのです。

それこそが「間に合ってくれ!」と願わざるを得ないサスペンスに繋がっている上に、その後には表面的な嫌悪感を覆す、仕事そのものの意義がはっきりと分かる、尊い光景も目にします。そこから彼がどのように心境が変わっていくのか、さらに「演技と現実の境界線があいまいになっていく」こと、後述する「うそをついてしまうこと」の葛藤に繋がる様も、大きな見どころになっていました。そのため、本作はレンタルビジネスへあまり良い印象を抱いていない人にこそ、見てほしいです。それこそが前述した主人公の戸惑いや嫌悪感に一致しており、その先の出来事からは「偏見」もあったと気付かされるでしょう。同時に、レンタルビジネスの全てを肯定するような欺瞞(ぎまん)にも陥っておらず、むしろ仕事そのものの問題点を真正面から見つめてもいました。

そうした社会的な批評性を備えていながらも、やはり主人公の気持ちがとてもよく分かるドラマでありエンタメになっていることが、本作の一番の美点でしょう。

2:主演のブレンダン・フレイザーの来歴やHIKARI監督の経験が内容とシンクロする

本作でさらに重要なのは、主演がブレンダン・フレイザーであること。そして、俳優としての挑戦が、役柄とシンクロして見えることです。

そのフレイザーは1999年のアクション映画『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』が特に有名ですが、体調の悪化、結婚生活の破綻、そしてセクシャルハラスメントを受けてうつになったことが重なり、ハリウッドの表舞台から遠ざかっていたこともありました。

しかし、2022年の『ザ・ホエール』では「体重272キロの孤独な男」という難役を演じきり、第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞するという復活を遂げたのです。HIKARI監督が『レンタル・ファミリー』でフレイザーを主役に迎えたのは、まさに『ザ・ホエール』の試写でその演技を見たこと、さらに上映後のフレイザーのオンラインでの質疑応答を見て、「彼の誠実さと魅力に『ああ、これが私のフィリップ(主人公)だ』と直感した」ことだったのだとか。

当のフレイザーは『レンタル・ファミリー』への出演を快諾したものの、劇中の主人公・フィリップは「日本語を流ちょうに話せないものの東京に長く住んでいる」設定であるため、一定の語学力はもちろん、日本文化への理解は不可欠。そのために通訳の指導を受けるのはもちろん、撮影開始の数週間前から来日し、ポケット翻訳機を手に街を歩き回り、できるだけ多くの人々と会話を試みたそうです。

(C) 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

さらに、劇中のフィリップは歯磨き粉CMの大役をきっかけに東京へ移住したものの、現在は鳴かず飛ばずという立場。その姿には、外国人として日本で生きる戸惑い、そして拭いきれない「疎外感」が読み取れるのですが、さらにHIKARI監督自身の経験も反映されているのです。

17歳で大阪からユタ州へ移住したHIKARI監督は、外国で暮らすアメリカ人俳優の物語を描きたいと考えていました。交換留学生として高校で唯一のアジア人だった彼女は、「その感覚を、東京で暮らす外国人なら誰もが感じる“漂流感”――国や文化に完全にはつながれない、圧倒されるような感覚として表現したかった」とも語っていたのです。

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また、レンタル家族会社のオーナーを演じる平岳大も、東京に実在する類似の企業の従業員への取材を重ねたそうです。その中で特に印象的だったのは、夜の孤独を紛らわせるため俳優を雇い、客間で眠らせていた高齢女性のエピソードだったそうで、「その話を聞いたとき、東京で一人暮らしをしている80代の母のことを思い浮かべました」「息子として強い罪悪感に襲われました(笑)。母も、隣の部屋に見知らぬ誰かがいることで安心できるほど孤独を感じたことがあったのではないか」と考えたのだとか。

このように、『レンタル・ファミリー』には監督の実体験と、俳優たちの役作りおよび個人的な心情が重なり合っています。キャラクターそれぞれに「本当にこういう人がいる」と思えるほどのリアリティが宿っているのは、そのためでしょう。

3:「演じること」「うそをついてしまうこと」にどう向き合うか

物語の中盤から、主人公・フィリップの倫理観がさらに揺さぶられる、もはや「究極の試練」に直面するということも重要です。何しろ、シングルマザーからの「11歳の娘を競争率の高い私立校に入学させるため、面接の場で父親を装ってもらう」という依頼を受けるのですから。

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しかも、「面接に同席するだけでは終わり」ではまったくありません。フィリップは少女との親子の絆を普段から「本物らしく」見せる必要に迫られ、しかも少女は「父親に見捨てられた」と思い込んでいるため、簡単には打ち解けられません。そこから、「うそをどのように本当らしく見せるのか」あるいは「本当の親子のような関係になるのか」も見どころになっています。

そして、HIKARI監督は、前述したように主人公のフィリップだけでなく、この少女もまた実体験を元に描いていると明言しています。というのも、母子家庭で育った経験を踏まえ、「私のお母さんは、昔よく私にうそをついていましたね(笑)。私は父がずっと前に亡くなったと信じていたんですが、実際には元気に生きていました」と語っているのですから。

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さらに、HIKARI監督は小学校1年生のときに「家の前で縄跳びをしていたら、近所のうわさ好きのおばちゃんに『あんたのお父ちゃんどこ行ったか知ってるか』って突然言われた」とも打ち明けています。そこでHIKARI監督が「お父さんはもう死んでる」と言ったら「ちゃうわ、女つくって出ていきよってんで」って返されたため、びっくりして家に駆け込んで母親に真実を尋ねると、ため息をつかれた後に、テレビを指差され「あの人がお父さん」と言われて、その画面には俳優の草刈正雄が映っていたので、「もちろん完全に信じました(笑)」と語っています。

これと同様の、あるいは相反するエピソードが、『レンタル・ファミリー』の劇中にはあります。それは「子どもは大人のうそをどのように受け止めるのか」「その子どもに大人はどう向き合えばいいのか」という、普遍的な問いかけにも繋がっていたりもするのです。

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この「演じること」「うそをついてしまうこと」へのテーマは、別のエピソードでも問い直されます。フィリップは老いた名優の取材をする記者を装い、友情を育んだ後に、「日本の南にある故郷へ一緒に旅をしてほしい」という依頼に応えようとし、そこでも自身の倫理観や責任感と向き合うことになるのですから。

そうした複数の物語の背景からは「日本社会における孤独や孤立の問題」も見えてきます。というのも、HIKARI監督は日本でのレンタルビジネスの台頭を、孤独の広がりはもとより、アメリカほど気軽にメンタルヘルスサービスを利用できる環境が整っていないこと、そもそものメンタルヘルスケアへの心理的ハードルの高さが影響していることを指摘しているのです。

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HIKARI監督の「対面でセラピストと話すことを望まない人にとって、日本ではまだ難しい部分があります」「だから人々は誰かを雇い、悩みを共有したり、ただ話し相手になってもらったりするのです。彼らは専門のセラピストではありませんが、支えや新しい視点を与えてくれる存在なのです」という言葉は、実際のレンタルビジネスはもちろん、この『レンタル・ファミリー』の物語の本質とも重なり合っています。

日本を舞台にしていることはもとより、そうしたHIKARI監督の社会への眼差しを「当事者」として感じられる日本人こそ、本作のテーマにもっとも深く入り込めるのでは、と思えるのです。

『37セカンズ』もぜひチェックを

日本では2020年に公開された、HIKARI監督の名前を世に知らしめた映画『37セカンズ』も、ぜひ見てほしいです。こちらは、漫画のゴーストライターをしている車いすの女性の「過保護な母親からの抑圧」を通じて、「障害者の可能性が制限されてしまっている」状況がリアルに描かれています。そして、女性の漫画編集者からの「妄想だけで描いたエロマンガなんて面白くないから、経験しておいでよ」というとんでもないアドバイスにより、性的な行為も含めた大冒険に向かうのです。

発端は極端ですが、何かをきっかけにして人生が動き出すことをうたう物語に、勇気づけられる人はきっと多いでしょう。そして、主演の佳山明は生まれつき脳性まひがある、社会福祉士としても活躍されている方で、その当事者のキャスティングも内容に大きな説得力を与えていました。意外なクライマックスから導かれたラストには、言葉にならないほどの感動がありますよ。

これから公開の「日本を描いた2本の映画」も

さらに今後に公開される、日本が重要な要素になる2本の映画を、ぜひチェックしてほしいです。

3月13日公開の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は実在の卓球選手マーティ・リーズマンの人生に着想を得て描いたドラマで、第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など主要部門を含む、堂々の計9部門にノミネートされています。その内容を端的に言えば、卓球版『あしたのジョー』。何しろ主人公は不遜な態度を崩そうとはしないイヤなやつ。その挫折と失敗に同情の余地がないほどサイテーなはずなのに、どこかチャーミングで憎めず、いつしか複雑な感情が芽生えていって、最後には途轍もない感動が待っている……! という傑作でした。日本人選手としてデフリンピックで2大会連続の銅メダルを受賞した川口功人が出演しているほか、しっかり「日本の風土や美術」が反映されていることも見どころです。

さらに、3月20日公開のフランス製のアニメ映画『アメリと雨の物語』は、ベルギーの小説「チューブな形而上学」を原作に、2歳半の女の子が1960年代の神戸の一軒家で暮らす様を描いており、第98回アカデミー賞では長編アニメーション部門にノミネートされています。子どもの成長と心理を丹念に描く豊かで美しいアニメにずっと目頭が熱くなっていましたし、「子どもはとても良く考えているからこそ、大人は子どもにどう向き合うべきなのか」という問いかけは『レンタル・ファミリー』に完全に通じていました。ぜひ、併せてご覧ください。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
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