巨人とソフトバンク電撃トレードの秋広とリチャード…環境を変えて大化けするロマン砲はどっちだ?

 巨人の秋広優人(22)、大江竜聖(26)とソフトバンクのリチャード(25)の2対1トレードが12日、両球団から電撃発表された。4番の岡本和真(28)が怪我で長期離脱することになった巨人は、長打力が魅力のリチャードに白羽の矢を立て、相次ぐ主力の故障離脱に悩むソフトバンクも打線と左腕の中継ぎ強化に動いたもので、両チームの思惑に応じたトレードとなった。リチャードも秋広も伸び悩んでいた2人。環境が変わることでブレイクする可能性はあるのか?

 偶然にも2人の移籍先の背番号は同じ「52」

 電撃トレードが決まった。巨人の4番岡本が一塁の守備時に「左肘靭帯損傷」で全治3か月とみられる大怪我を負ったのが6日の阪神戦。チームの非常事態に阿部監督は、打撃不振で二軍調整を直訴していた坂本と浅野を7日の阪神戦から緊急昇格させた。坂本がその試合でタイムリー二塁打を放ち、浅野はここまで2本の本塁打をマークしているが、坂本は、ヤクルト3連戦で9打席連続ノーヒットに終わり、12日に再度登録を抹消されるなど、打線の強化が急務だった。
 選択肢は新外国人か国内トレードかの2つ。巨人は緊急トレードを模索する中、1軍では、通算打率.160、10本塁打と結果は出ていないものの、ファームで昨年まで5年連続で本塁打王、3年連続4度の打点王を獲得するなど、そのポテンシャルには疑いのないリチャードの可能性に目をつけた。
 一方のソフトバンクも近藤、柳田、周東ら主力の相次ぐ戦線離脱で16勝18敗2分けで、4位と予想外の不振に苦しんでいた。開幕に出遅れた栗原が戻ってはきたが、その打線の強化と、投手陣でも、ヘルナンデス、松本晴の2人に頼っている左腕の中継ぎを厚くすることが強化ポイントだった。
 秋広は、開幕1軍からは漏れたが、5月3日に1軍昇格して、前日11日のヤクルト戦も出場機会はなかったもののベンチ入りしていた。ここまで5試合に出場し、7打数1安打で打率.143と成績は残せていないが、プロ入り3年目の2023年には121試合に出場、主に外野手で57試合で3番を任されて、打率.273、10本塁打、41打点、OPS.720の実績を残した。その後、伸び悩んでいる“未完の大器”ではあるが、1軍の実績でいえばリチャードよりも上。
 また変則左腕の大江も今季の1軍登録はないが、プロ6年で149試合に登板し、通算34ホールド、防御率3.75の“左キラー”。高梨とポジションがかぶるため、昨季の1軍稼働は5、6月の2か月だけだったが、16試合に登板して防御率2.63の数字を残している。
 現役時代に阪神、ダイエー(現ソフトバンク)、ヤクルトで先発、抑えで活躍し、パ・リーグの野球に詳しい評論家の池田親興氏は、今回のトレードについて「驚いたのは、2対1トレードだったこと」と受け止めた。
「実績だけを見れば、投打を補強できたソフトバンクが得をしたトレード。内実は知らないが、巨人がよほど切羽詰まっていたのかもしれない。ソフトバンクからすれば、外野と一塁を守れる秋広が入れば、近藤、柳田が復帰後も選択肢が増えるし、松本晴が出てきたものの、ヘルナンデスが不安定な中継ぎ左腕に厚みを持たせることのできる大江の獲得も大きな補強になった。そしてリチャード、秋広共に伸び悩んでいる大型の野手。環境が変わることで大化けする魅力を秘めている2人が、その環境を変えることへの期待は大きい」

 

 選手層が厚く出番に恵まれなかったソフトバンク出身の選手が環境を変えて他球団でブレイクする例が多い。投手では、現役ドラフトで阪神に移籍した大竹がその代表選手。2021年、2022年と2年連続ゼロ勝だったにもかかわらず12勝2敗と大化けして2023年の阪神の優勝に貢献した。野手では、同じく現役ドラフトで日ハムに移籍した水谷が、1軍出場ゼロから昨季97試合、打率.287、9本塁打、39打点と大ブレイク。交流戦では、史上最高打率.438を記録してMVPを獲得している。
 ではリチャードも“第2の水谷”となる可能性があるのか。
 池田氏は、「水谷は、1軍出場のチャンスがまったくなかったが、リチャードは何度もチャンスをもらっていた。その違いがあり状況は似ているようで似ていない。しかし、覚醒の可能性は十分にある」と見ている。
 リチャードは、沖縄尚学から2017年の育成ドラフト3位でソフトバンク入りし、王会長がずっと目をかけていた“ロマン砲”。2021年9月5日のオリックス戦でのプロ1号が逆転満塁ホームランだった。
 だが、レギュラーには定着できず、一塁には山川、三塁には栗原がいて出場の可能性が薄いため、昨年オフの契約更改ではトレードを志願していた。
 その栗原が開幕に出遅れたため、今季は開幕スタメンに抜擢されたが、6試合で22打数2安打しか打てずに打率は.091で、毎試合2つずつ三振を喫し、12三振と結果を残せず2軍に落とされていた。
「リチャードの打撃練習を見ているとメジャー級ですよ。それでも結果を出せなかった理由のひとつに打席でのインサイドワークの問題があった。例えば、初球の甘いスライダーを簡単に見送って、2球目のスライダーに手を出して空振りしたり、凡打をするような場面が目立った。何を狙うか、頭の中を整理できず、結果が出ないため、さらに焦って後手、後手に回るという最悪のパターン。巨人のベンチには今季から、読みや配球をアドバイスしている橋上秀樹作戦戦略コーチがいるので、その問題が解消される可能性がある。またソフトバンクの指導体制は、1軍ではデータを重用して、技術指導は行わないなど、メジャー方式の体制が取られているため、指導体制や、指導者が変わることでリチャードが変わる可能性はある。そしてそもそも投手のレベルがパ・リーグよりセ・リーグの方が落ちる。野手に関しては、パからセに移籍した選手に覚醒する可能性はあるだろう」
 池田氏は、そう予想している。

 

 リチャードは球団を通じて「話を聞いた時には驚きましたが、少し落ち着いてくると、これまで見守ってくれたホークスの皆さんへの感謝がどんどん湧いてきました。特に王会長や小久保監督、山川さんには期待をかけてもらい、何度もありがたい言葉や指導を受けました。それに応えられないままなのが心残りですが、これからジャイアンツで成長する姿を見せて恩返しをしたいと思っています」とコメント。巨人の印象については、「ファーム選手でも対戦した時に、どっしりとした威圧感というか、威厳のようなものを感じていました。これからそのチームの一員になるんだと思うと身が引き締まります」と語り、「育成で入団してから8年間、良いことも悪いことも経験してきて、心が折れそうになったこともありますが、ファンの皆さんの声援でその都度立ち上がって頑張ることができました。チームが変わっても、僕はこれからも砂川リチャードなので、引き続き応援してくれたら嬉しいです」と、ファンへのメッセージを伝えている。
 また池田氏は、巨人では、あの松井秀喜氏が背負った背番号「55」を継承していた秋広に関しても、「パワー勝負のパ・リーグの投手の方が合うのかもしれないし、山川や柳田などの長距離砲の影響をいい意味で受ける可能性もある。近藤、柳田、周東らが揃うまでは、間違いなく出番はある。そこでいいスタートを切れれば、2年前に実際、結果を残した実力を再び発揮する可能性はあると思う」と期待を寄せた。
 その秋広は、球団を通じて「ジャイアンツファンの皆さんの応援がすごく力になって頑張ることができました。チームは変わりますが、引き続き応援して貰えたら嬉しいです」との談話を発表している。
 なおリチャードの新天地での背番号は「52」。秋広もソフトバンクでは「55」は石塚がつけているため、偶然にも「52」で大江は「29」となることが発表された。

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