「現れないほうが衝撃だった」パリ五輪閉会式で“公然の秘密”だったトム・クルーズの登場とスタントにもサプライズ無し?!海外メディアやSNSでの評価もバラバラ

 パリ五輪の閉会式が11日、スタッド・ド・フランスで行われ、2028年の開催地であるロサンゼルスへのフラッグハンドオーバーセレモニーに人気俳優のトム・クルーズ(62)が、自身の代名詞的な主演映画「ミッション・インポッシブル」さながらの“空中遊泳”で登場する演出があり大きな話題を集めた。会場を盛り上げて、その演出を評価する海外メディアも少なくなかったが、一方で事前に情報が漏れていたこともあり「現れない方が衝撃だった」という声もあった。

 ロス名所「ハリウッドサイン」を五輪マークに

 閉会式のクライマックスはトム・クルーズの登場だった。今大会は競技を観戦している姿が度々目撃され、米芸能系メディア「デッドライン」が閉会式の登場をスッパ抜くなど、もう噂の域を超えていたが、次の開催地である米国ロスへ五輪旗が手渡されるセレモニーにやはり「007」が登場した。
 米国国歌を斉唱したグラミー賞歌手のH.E.R.が、ギターでお馴染みの「ミッション・インポッシブル」のフレーズをかなでるとスタンドの屋根の上に革ジャン姿で立つトム・クルーズにスポットライトが当たり、場内のスクリーンにその姿が映し出された。それだけで7万人を超える大観衆はヒートアップ。トム・クルーズは、そこからダイブし、ワイヤーを使い“空中遊泳”をしてフィールドに降り立った。アスリートが作る花道をハイタッチをしながら駆け抜けステージに上がると、五輪旗を受け取り今度は、バイクに跨ってそのまま会場を飛び出した。
 ここから場内の映像にスイッチ。パリの街を疾走し、映画さながらにシャルルドゴール空港からバイクのまま輸送機に乗った。ロスの上空にさしかかるとスカイダイビングで滑降。野原から山に駆け上がり、隠してあった道具を使い、何やら作業。そこに自転車で東京五輪のマウンテンバイク代表のケイト・コートニーが駆け上がってきた。グータッチをしたトム・クルーズは、彼女に五輪旗を託した。映像は引きになると、なんとその山と作業していたのは、有名な「HOLLYWOOD」サインのある場所で、00の文字があと3つ増え五輪のシンボルマークに変えられていた。その後、陸上の男子200、400mなどで4つの金メダルを獲得した“レジェンド”マイケル・ジョンソンから、スケートボード・ストリートの2021年東京五輪銅、パリ五輪銀のジャガー・イートンへ受け継がれ、ベイスビーチに設けられていた「LA28」の巨大モニュメントが置かれた特設ステージでは、米国を代表するスターたちの豪華コンサートが始まった。
 人気ロックバンド「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」、グラミー賞歌手のビリー・アイリッシュが熱唱し、パリ五輪のブレイキンで競技開始のセレモニーを行っていた“伝説的ラッパー”スヌープ・ドッグとヒップホップ界のカリスマのドクター・ドレーまでがジョイントして最高のパフォーマンスを披露した。
 トム・クルーズの閉会式登場を8月1日にスッパ抜いていた米芸能系メディアの「デッドライン」は、「このパフォーマンスはオリンピックの最大の秘密の一だった。実際にクルーズが現れなかった場合の方が衝撃だっただろうが、心配する必要はなかった。彼は本当に現れた」と皮肉を交えて伝えた。
 2012年に開催されたロンドン五輪の開会式では、エリザベス女王が映画「007」シリーズにジェームズ・ボンド役で出演しているダニエル・グレイグとスタジアムの上空からパラシュートで登場する演出で話題になった。エリザベス女王が亡くなったときには、女王は自らが登場することを秘密にすることを重要な出演条件にしていたことが明らかになっている。
 SNS上では「トム・クルーズがミッションをやるのは知っていた」、「トム・クルーズが閉会式に参加するという噂を耳にしたとき、私はミッション:インポッシブルの要素が盛り込まれるだろうと思った。だって新作が公開される予定であることを知っていたので」などの意見が散見し、それほどのサプライズがなかったのは、ロンドン五輪の開会式とは違い、情報漏れや、彼が競技の観客席で度々目撃されたことにより、トム・クルーズの登場が公然の秘密だったからだろう。
 米芸能系メディアTNTによるとトム・クルーズは、IOC(国際オリンピック委員会)の関係者に自ら売り込み、閉会式での一連のスタントを提案したという。

 

 だが、何も批判しているわけではなく、トム・クルーズを登場させた米国らしい演出を評価する声も多かった。
 前出のデッドラインは「トップガンのスターは、2028年のロサンゼルスへのパリ大会の引き継ぎの要となった。ダニエル・クレイグ、故エリザベス女王2世が開会式に登場した2012年のロンドン大会(の関係者は)反論するかもしれないが、待ち望まれていたクルーズのスタントは、ハリウッドらしいものだった」と評価した。
 米紙「USAトゥデイ」は、「クルーズはオリンピックに出場した選手の一人ではない。62歳という年齢(大半のオリンピック競技では、運動能力がピークを過ぎている年齢)に加え、身長は1m70しかなく走るフォームも一般的ではないことで有名な米国の俳優だ。彼はこれまで体操や水泳など様々な競技の観客席に姿を見せており、土曜日には女子サッカーの米国代表の金メダルマッチで目撃された。しかし、彼がオリンピックに最も貢献した場面は、まさにオリンピックが閉会するその時だだった」とユーモアを込めて評価を与えた。
 同記事によると飛行機からスカイダイビングでハリウッドサインに向かって降下する場面は、3月に撮影されたものだという。
 一方、英紙「ジ・インデペンデント」は「パリの開会式は演出上のトラブルに見舞われた。その後の閉会式は、安全策に徹した。高尚なアートではなくポップコンサートに近かかった」と閉会式を総括した。
 開会式ではマリー・アントワネットの死刑シーンが物議を醸し、「最後の晩餐」をパロディにした演出には、フランスのカトリック教会やローマ教皇庁が、遺憾の意を示して、組織委員会が謝罪する顛末もあったが、閉会式では、そういう問題のあるような演出は一切なかった。
 同紙はトム・クルーズが登場したセレモニーについても触れ、「音楽フェスティバルのような雰囲気から官僚的な儀式(IOC会長の挨拶など)へと移行し、その退屈な時間を乗り切れば、2028年の開催都市であるロスへの引き継ぎセレモニーというご褒美が待っていた。不安定な演奏による“星条旗(国家)”の斉唱に続き、すでに宣伝されていた62歳のトム・クルーズ(ますますマダム・タッソーの蝋人形に似てきた)がスタジアムの梁から吊り下げられ降りてくるという光景が披露された。
 LA出身のレッチリ、アイリッシュ、ドッグらが太陽が降り注ぐビーチから“生中継”で演奏を披露した」と痛快に皮肉りながら一連のセレモニーを伝えた。
 そして「もし必要であれば米国がソフトパワーの覇権を維持するためにどんな投資も惜しまないことを示す厳しい警告だった」と、米国の国際社会への影響力へ警鐘を鳴らすことも忘れていなかった。2028年のロス五輪ではどんなドラマが待ち受けているのだろうか。

元記事を読む