井上尚弥に挑むカルデナスが司会者に「噛ませ犬」と表現されるも「失うものは何もない。ただ完璧な36分間を戦う必要が」と悲壮決意…モンスターは堂々「求められているものは承知」と宣言

 プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(32、大橋)が1日(日本時間2日)、米ラスベガスのMGMグランドホテルで、4日のWBA1位ラモン・カルデナス(29、米国)との防衛戦に向けての公式イベント「グランドアライバル&オープンワークアウト」に参加してインタビューに応じた。井上は「ここラスベガスで何を求められているか承知の上で来ている」との覚悟を明かして絶対的有利とされるカルデナス戦への隙を見せなかったが、一方、ミット打ちなどを披露したカルデナスは「間違いは許されない」との悲壮な決意を明かした。

 

挑戦者カルデナスが悲壮な決意を明かす(写真・山口裕朗)

 過去お気に入りの1戦は「フルトン戦」

 決戦3日前に会場となるT-モバイルアリーナの近くにあるMGMグランドホテルに特設リングが設けられ、ファンを入れて公開で開催された公式イベント。主役は「ナオヤ・イノウエ」だった。挑戦者のカルデナスを含む、アンダーカードの出場選手の公開練習やインタビューが、順番に行われた最後に、お馴染みの入場曲「Departure」が流れ、ジャージ姿にキャップをかぶった井上が階段から登場すると、司会者が「みなさんスマホを用意して!」と呼びかけた。
 リングインして、300人を超えるファンの大歓声に手を掲げて応えると、そのまま場内の放送席に座り、インタビューに応じた。
 当日、全米へのライブ中継を行う米スポーツ専門局「ESPN」が用意した美人の女性司会者が「コンニチワ」と日本語で語りかけると、井上も「コンニチワ」と日本語で返した。
「4年ぶりにラスベガスに戻って非常にワクワクしています」
 今回の防衛戦は、ビッグマッチが開催されることで知られるメキシコの記念日「シンコ・デ・マヨ」ウィークに行われる。その“オオトリ”のメインに日本を代表して立つ意義を問われると「ここラスベガスで何を求められるか承知の上で来ている。シンコ・デ・マヨの5月4日には期待通りのボクシングを見せたい」と堂々と言い放った。
 日本で、地位も名声を築きあげたモンスターが、さらなるレガシーを作るためには米国での活躍が重要かと聞かれ「そういった気持ちもあるんで、4年ぶりにラスベガスに戻ってきました」と返した。
 対戦相手のカルデナスはWBA1位で27戦26勝(14KO)1敗のボクサーファイター。「地獄のパンチを持つ男」の異名を持ち、3戦前になる昨年2月にはWBC中米カリブスーパーバンタム級王座決定戦でイスラエル・ロドリゲス・ピカソ(メキシコ)の顎を右のカウンターで粉砕して6ラウンドTKO勝利した。プロ13戦目に判定で1敗しているが、減量苦でのコンディション不良が原因で、以降14連勝中。8年間負けはない。だが、前評判は井上が圧倒的に有利。ブックメーカーのオッズも一方的で、英大手ブックメーカーの「ウィリアムヒル」では、井上勝利がほぼ元返しの1.02倍で、カルデナスの勝利が13倍となっている。
 司会者は忖度なしにカルデナスを“アンダードッグ(噛ませ犬)”と表現した。
その上で「あなたは、どんな相手も過小評価はしていないのを知っている。注意点はどこか?」と質問されると、「全体的にまとまった選手。その中で左フックという一発あを持っている。一瞬の油断だけは気をつけたい」と回答した。
「今後は階級を上げるとも聞いている。戦いたい特定のファイターがいるか?」との質問も飛んだ。
 前日にWBA暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)とプロモート契約をしているマッチルーム社のエディ・ハーン代表が「契約が完了した」とXで報告。9月14日に東京で開催されるとの報道もあり、12月には、サウジアラビアで、WBA世界フェザー級王者のニック・ボール(英国)、来年の5月には東京ドームでWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)とのスーパーマッチまで計画されている。それでも井上は明確な答えは返さず「ある程度、今後の選手は絞られるが、まずはカルデナスに集中したい」とだけ言った。

 

 また井上が考える過去のベストバウトも明らかになった。
「スーパーバンタム級に上げたフルトン戦は、自分の中でひとつ気に入った試合」
 井上は、バンタム級の4つのベルトを統一すると、2023年7月にテストマッチも挟まず、いきなり1階級上のWBC&WBO世界スーパーバンタム級王者のスティーブン・フルトン(米国)に挑戦し、8回にTKOでキャンバスに沈めた。その試合がベストバウトのひとつだという。
 そしてここで面白い質問が飛んだ。
 そのフルトンとカルデナスの髪型が似ているというのだ。両者とも司会者が「ネズミのしっぽ」と評した細い後ろ髪を数本長く残した髪型をしている。すると井上は「なんとなく気づいていました」と笑って答えた。
 そのカルデナスは井上の前にリングに登場して悲壮な決意を明かした。
 ミット打ち、シャドーボクシングを披露した後に、井上に勝つための方策を聞かれ、「ずっと言ってきたが(勝つためには)パーフェクトな36分間を戦う必要がある。パーフェクトな36分間を戦ったとき、私が誰もが認めるチャンプになるだろう」と口にしたのだ。
 司会者に「間違いは許されない」と質問されると「そうだ」とうなずいた。
 カルデナスは、好戦的ではあるがパンチを打つ際にガードが甘くなる。その小さなディフェンスのミスを井上は見逃してくれない。おそらくカルデナスもそれを理解しているのだろう。
 そして彼も司会者に「あなたは今回“アンダードッグ(噛ませ犬)”の立場だが」と厳しい表現を投げかけられた。
「(井上と戦うという)夢が実現した。でも、この夢を完成させなければならない。失うものは何もない。得るものだけだ。自分がやりたいことをやってやる。ファンにショーを見せるだけだ」
 そう言い次の質問に対してこう続けた。
「金のためにここにいるわけじゃない。オレは、レガシーを作るためにここにいるんだ。お金は出ていくが、世界王者になれば、その事実は誰も奪うことができない。この世を去ったあとでも永遠に残るじゃないか」
 メキシコ系米国人のカルデナスにとってみれば「シンゴ・デ・マヨ」ウィークのリングに立つこともこれ以上ない名誉。T-モバイルアリーナの観客の応援を味方につける可能性もある。その悲壮な覚悟がモンスターにどこまで通用するのか。
 最後に。
 井上が、司会者とのやりとりで返答に困ったシーンが一度だけあった。
「米国の格闘技ファンが知らない話を何かひとつ教えて下さい」と聞かれ「知らないこと?難しいなあ。アハハ」と答えなかった。
 司会者が「じゃあ、好きな食べ物は?」と問うと「唐揚げ」と返した。
 それが「フライドチキン」と、米訳されると、「私も大好きです」と司会者を喜ばせ、会場からは笑いが起きた。モンスターが見せたチャーミングな一面もまた米国のファンの心をつかんだのかもしれない。

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