「心臓に悪い走りで申し訳ない」レッドブル角田裕毅が10位入賞を果たしたマイアミGPの舞台裏…いかにしてピットレーン速度違反の5秒ペナルティを克服したか
05/06 06:47
F1の今季第6戦、マイアミGP決勝で5秒ペナルティーを科されながら、10位に入賞したレッドブルの角田裕毅(24)が、レース終盤にチーム側とかわし続けた生々しい無線の内容が明らかになった。F1公式サイドなどが5日に報じた。姉妹チームのレーシングブルズのアイザック・ハジャー(20、フランス)に猛追された残り2周で、エンジンの出力を「3」から「4」へ切り替えた判断が、0秒168差での逃げ切りを生んだ。角田はレース後に「心臓に悪い走りで申し訳ない。次はもっとやるよ」とチームへ謝罪している。
明らかになった緊迫の無線の内容
残り2周での判断が、角田の10位入賞を導いていた。
逃げ切りを図る角田と、レッドブルのエンジニア、リチャード・ウッド氏が無線で交わした言葉の数々が、緊迫した状況を伝えている。まずはハジャーの猛追を受けていた角田が、ウッド氏へエンジンモードを確認した。
「残りの周回はモード3でいいの?」
土壇場での提案に、ウッド氏らは答えに窮した。
「すまない、もう一度頼む」
再び「残りはモード3でいいの?」と聞いてきた角田に対して、今度は数秒の沈黙が訪れる。おそらくは角田のマシン、RB21のエネルギー残量をさまざまな角度から確認していたのだろう。ウッド氏は語気をやや強めて言葉を返した。
「モード4、モード4だ」
エンジンの出力を上昇させる指示が、最終57周目において、角田のラップタイムをわずかに速めた。5秒のタイムペナルティーを差し引いたタイムで、ハジャーをわずか0秒168差上回った。無我夢中だったからか。角田はチェッカーを受けた状況に気がつかず、ペースを緩めていなかった。
前方を走っていたウィリアムズのカルロス・サインツ(30、スペイン)らのマシンがスロー走行になった光景を見て、角田は再び無線で確認した。
「これでフィニッシュだよね」
角田をねぎらうように、ウッド氏が言葉を返した。
「フィニッシュ、10位だ。ラスト数周、よくやったぞ」
ようやくアクセルを緩めた角田が、安堵したように言葉を紡いだ。
「全力を尽くしたけど、(レース全体の)ペースは本当に悪かった。また話し合おう。ピットレーンの件は申し訳ない。厳しかった」
ピットレーンの件とは、角田が科された5秒のタイムペナルティーを指す。
決勝は途中で雷雨になる予報が出ていたなかでスタート。10番グリッドの角田は1周目でハースのエステバン・オコン(28、フランス)を抜いて9位に浮上した。しかし、雨を見越したセッテイングが影響していたからか。前方を走るフェラーリのシャルル・ルクレール(27、モナコ)との差をなかなか詰められない状況が続いた。
「10分後に雨が降り始めて、5分は降り続きそうだ」
天候の急変に関してこう指示していたウッド氏は、雷雨にはならない、と一変した予報を受けて方針を転換。角田へ緊急の指示を出した。
「タイヤを使い切ろう。タイヤセーブはキャンセルだ」
角田は28周目でピットインし、ハードタイヤに交換してアタックをかけた。しかし、直後の29周目にハースのオリバー・ベアマン(19、英国)がメカニカルトラブルでストップ。バーチャル・セーフティー・カー(VSC)が導入された。
決勝で2度目となるVSCの影響で、フェラーリのルイス・ハミルトン(40、英国)とザウバーのニコ・ヒュルケンベルグ(37、ドイツ)の先行を許した角田を、さらなる試練が襲った。32周目になってウッド氏がこう伝えた。
「ユウキ、ピットレーンのスピード違反で5秒ペナルティーだ」
ピットレーンに進入する際に、角田はタイムロスを最小限にとどめようと、ギリギリまでブレーキを我慢した。しかし、タイミングがわずかに遅れたためにタイヤがロックアップ。ピットレーンの制限速度80kmを5.6kmオーバーしていたとスチュワード(審議委員)が確認し、レッドブル側へ通達された。
5秒のタイムペナルティーが科されたなかで、状況は10位に浮上した角田と11位で猛追してくるハジャーが、入賞をかけた一騎打ちに入った。ハジャーの姿は視認できない。それでも5秒以上の差をつけてチェッカーを受けなければ順位が入れ替わる。
53周目になって、“見えざる敵”のハジャーが4秒9差に迫ってきた。
「ハジャーがペースをあげてきている。全力を尽くすんだ」
緊急事態を告げるウッド氏の無線に、角田もやや苛立つ口調で返す。
「わかっているよ、やっているよ」
そして、冒頭で記した残り2周でのエンジンモードの切り替えが奏功した。ウッド氏に代わって無線を取ったレッドブルの代表、クリスチャン・ホーナー氏(51)が10位入賞と1ポイント獲得をねぎらった。
「最後数周、いい走りだった。よくやった」
そして、角田はこんな言葉でホーナー氏やウッド氏に謝罪している。
「心臓に悪い走りで申し訳ない。次はもっとやるよ」
F1の公式サイトは、レース後の角田のコメントも伝えている。今季2戦目までのチームメイトで、角田がレッドブルに緊急昇格した後は何かと比較されてきたハジャーの追い上げをあげながら、角田はこう語っている。
「5秒のタイムペナルティーは明らかに僕のレースを困難なものにしたし、昔のチームメイトが僕のレースを楽にしてくれたわけでもなかった。最後の10周で彼はかなりペースを上げ、僕も十分にプッシュした。本当に大変だったけど、やるべきことをやるだけだったし、最後の最後に自分のペースを最大限に出せたと思っている。ポイントを獲得できたのはうれしいけど、まだまだ同時に自分のペースには満足していない。チームとしても、僕だけでなく、全体的なペースで苦戦していたと思う」
英国のモータースポーツ専門メディア『RACEFANS』は、0秒168差で2度目のポイント獲得を逃したハジャーのコメントを伝えている。
「最後のラップではギャップを縮めたいと思いすぎて、あちこちでミスをしてしまった。フラストレーションが溜まっているし、ちょっと落ち込んでいる」
マイアミGPのスプリントで6位に入賞し、獲得した3ポイントも加えて合計9ポイントとした角田は、ドライバーズランキングで11位に浮上した。操作が難解とされるマシンへの適応を可能な限り早めながら、16日に開幕する次戦のエミリアロマーニャGPからスタートする、舞台をヨーロッパに移した戦いに臨むことになる。