「井上尚弥のフェザー級挑戦は厳しい」「パウンド・フォー・パウンドで1位のウシクを超えるとは思わない」元5階級制覇王者のドネアがダウンを喫したモンスターに2つの苦言

 プロボクシングの元5階級制覇王者のノニト・ドネア(42、フィリピン)がスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(32、大橋)のフェザー級挑戦に対して「厳しい試合になるかもしれない」との警告を発した。米「ボクシング・シーン」の取材に答えたもの。また米「リング誌」で現在2位のパウンド・フォー・パウンドランキングを1位へ昇格させる評価はできないとの見解も示した。井上は4日(5日)、米ラスベガスでWBA1位のラモン・カルデナス(29、米国)に8回TKO勝利したが、2回にキャリア2度目となるまさかのダウンを喫していた。井上は9月14日に名古屋でWBA世界同級暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(30、ウズベキスタン)と防衛戦を行った後、12月にはサウジアラビアでWBAフェザー級王者のニック・ボール(28、英国)への挑戦が計画されている。

「賢いファイターだったなら負けていたかも」

 

 モンスターは「年間最高試合候補」と米メディアに評価される逆転の8回TKOでラスベガスの“新聖地”T-モバイルアリーナのメインを飾った。だが、2回にカルデナスのカウンターの左フックを浴びて昨年5月6日のルイス・ネリ(メキシコ)戦以来、キャリア2度目となるダウンを喫した。
 米専門サイト「ボクシング・シーン」によると、かつて井上と2度対戦して連敗しているドネアは「素晴らしい試合だった。この1週間、他の試合を見てきた中で信じられないような試合だった」と高い評価を与えた。
 前日計量後にESPNのゲストとして井上と対面してインタビューまで試みていたドネアが言う「この1週間」とは、メキシコの記念日である「シンコ・デ・マヨ」ウィークに3日連続で行われたビックマッチのこと。
 ただ“問題児”ライアン・ガルシア(米国)はダウンを奪われたあげくに判定負けで1年ぶりの復帰戦を飾れず、主役になるはずのサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)はスーパーミドル級の4団体統一王者に返り咲いたものの精彩を欠く内容での判定勝利。ドネアがドラマチックな井上の試合を評価したのも当然だろう。
 ドネアが称えたのはダウンを奪ったカルデナスの勇気だ。
「誰もが恐れている相手と戦っているにもかかわらず、戦うことを厭わない男がいた。彼はそこに留まり、ショットを受け、ショットを与えることを厭わなかった。彼がずっと支配されていた過去の試合を思うと、とてもエキサイティングだった。彼にとってはいい試合だった」
 そしてダウンを克服した井上を「彼のパワーにはいつも感心させられる。彼は(ダウンから)立ち上がった。私のパンチを受けてもまったく慌てず、次のラウンドに移って調整する姿は素晴らしかった」と称えた。
 2019年11月のWBSS決勝で井上と対戦したドネアは2回に“宝刀”左フックで井上に眼窩底骨折を負わせたが、致命傷とはならず、逆に11ラウンドにボディショットでダウンを奪われて判定負けしている。
 ドネアはこう続けた。
「もし彼が今回のような展開で賢いファイターと戦っていたら、一歩遅れを取っていた(負けていた)かもしれない。彼はパワーだけに集中していた。昔の私がそうだった。そうするとディフェンスが崩れて大きな打撃を受けることもあるだろう。それはジムワークで調整しておかねばならない」
 井上が強引に攻め続けていたことに苦言を呈した。
 その上で井上が「最終目標」と公言したフェザー級への挑戦へ警告を発した。
「私なら遠慮する。それでも彼は126ポンド(フェザー級)で戦えるだろう。カルデナスもパンチがある。でも、もっと大きな選手、もっとラフな選手との対戦は、.彼にとっては厳しい試合になるかもしれない。彼のパワーは上の階級でも通用するのか。井上はカルデナスにストレートを打ち込み、カルデナスも何発か打ち返して、最終的には井上のパワーに屈した。でも、最終的には大きい方がもっといいショットを打てるようになる」

 

 ドネアが危惧するのは体格差だ。
 井上の次戦は9月14日に名古屋でWBA世界同級暫定王者、アフマダリエフとの防衛戦になるが、それをクリアすると12月に3年30億円のスポンサー契約を結んだ「リヤドシーズン」の本拠地であるサウジアラビアで1階級上のWBA世界フェザー級王者、ボールに挑むプランが進行している。井上には他のフェザー級王者からの挑戦状も次から次へと舞い込んでおり、セミファイナルで7回TKO勝利による防衛に成功したWBO世界同級王者のラファエル・エスピノサ(メキシコ)も「井上との対戦が目標だ」とリング上で明言した。
 カルデナスはフィジカルを生かし、ガードを固めて前に出て、距離を詰めて攻撃の手を緩めず打ち終わりを狙うという戦術を徹底してきた。フェザー級でさらにフィジカルの強い相手にこの戦術を徹底されれば、井上がまだ苦戦する可能性は十分に考えられる。ドネアが警告するのもその部分だろう。
 またドネアは、米老舗「リング誌」が現在2位としている井上のパウンド・フォー・パウンドランキングについても厳しい持論を展開させた。「ボクシング・シーン」が、「井上はテレンス・クロフォード(2階級4団体統一王者で現WBA世界ス―パ―ウエルター級王者)やオレクサンドル・ウシク(ヘビー級3団体統一王者)らと世界最高の現役ファイターの座を争ってきた。だが、カルデナス戦での彼のパフォーマンスは、3人の中で最も欠点が多いことを再認識させるものだった」との見解を伝えると、ドネアも「そうだね」と同調した。
「スティーブ・フルトン、僕、ルイス・ネリはいいファイターだ。でもウシクがやったように、この階級の強豪を倒してこの階級を占拠し、また上位に進出するようなことはない。ウシクの場合、階級内のすべての選手を倒している。ウシクや “バド(クロフォード)”の戦績を考えると、彼(井上)は間違いなくそこ(ランキング上位)にいるけど彼らを超えるとは思わない」
 現在1位のウシクと比べると井上の対戦相手に問題があると指摘した。でもこれは井上の問題でもプロモーターの問題でもない。この時代のこの階級にたまたまモンスターに肩を並べる強力なライバルがいなかっただけである。
 ただ「彼は(9月のアフマダリエフ戦で)それ(パウンド・フォー・パウンド1位)を目指すべきだ」とドネアは提言した。
「彼はよく戦ったが、他の誰もが何かに引っかかるのと同じように何かに引っかかった。しかし、それは彼にとって良い戦いだった。彼が“MJ”に対して最高のパフォーマンスを発揮することを、おとしめたり、何かを奪ったりしてはならないんだ」
 9月14日のアフマダリエフでは井上の真価が問われることになる。

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